さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜



一瞬、何が起こったかわからないまま、固まって。


数秒後──

私が遥風の手を振り払ったのだ、と気がついた。



「…………え?」



それでもなお、自分のしたことが理解できずに呆然とする。



今の……何?



わけがわからず目の前の遥風を見上げると、彼はちょっと息を呑んだまま、目を見開いて固まっていて。

やがて、その目の奥に、じわじわと深く傷ついたような色が滲んでいくのが分かった。



……ち、

ちがう。



今のは、違う。


そんなつもりじゃなかった。



喉の奥が焼け付くように熱くなって、でも、何も出てこない。



なんで。

なんで何も言えないの?



脳内で頑張って言葉を探すけど、さっきまで空っぽだったそこからは、何も選び取れなくて。



……いつも、私、遥風とどうやって話してた?

どうしよう、早く。いいから早く、何か言わなきゃ──



けれど、私が口を開くよりも前に。

遥風が、ふい、と視線を逸らした。


振り払われた腕を静かに下ろすと、何も言わずに私とすれ違う。


その異様な空気に、さすがに周囲も何かを感じ取ったのだろうか。

みんな驚いたようにこちらを見ていて、さっきまで流れ続けていたトラックはいつの間にか止まっていた。