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照明の熱が、肌を焼くようだった。

全身が軋み、痛みに震える。
疲労と眠気が意識を曇らせ、まるで深い霧の中を彷徨っているような感覚。
ステージから見下ろす光景がぐらぐらと揺れ、まるで地面が液状化したかのように、不安定に揺蕩う。

スタッフの指示で、私たちは姿勢を正す。

張り詰めた静寂を破ったのは、乙瀬凛也だった。

「……皆戸遥風くん」

驚愕と感心の混じった、圧倒されたような表情。

「少し見ない間に、まるで別人のようになりましたね。今まで持て余していた『技術』の使い方を完璧にマスターしてきたというか。その存在感、カリスマオーラがとにかく凄まじくて、彼がセンターにいないパートは違和感を感じてしまうほどでした」

……遥風。

才能が潰れることなく、むしろ前よりもそのダークな迫力が何段階もブラッシュアップされた、圧巻のパフォーマンスだった。

彼の宣言通り、今回私は完全に食われた。ステージ全体が、終始皆戸遥風の支配下にあった。

良かった。
本当に。

ようやくこれで、彼の努力が、才能が、世間に認められる。

結局、その後の講評は、ほとんど頭に入らなかった。

遥風に関する講評以外は、あまり興味が無かったから、というのもあるけれど。

昨日から、琥珀が棄権になったり、遥風の計画を妨害しようと奔走したり、京に男装がバレたり、遥風と大喧嘩したりと、色々なイベントが立て続けに起こって、疲労が溜まりに溜まっている。

それに加え、追い込み練習からの徹夜という最悪のフィジカルコンディション。多分、私は今、体調を崩してる。

朦朧とした意識の中、何とか立っているだけで精一杯だった。

スタッフの指示で舞台袖に下がるよう言われるや否や、私は逃げるように暗闇に転がり込み、その場にへたり込む。

「おい、大丈夫かよ」

すぐさま駆け寄ってきたのは、灰掛遼次だった。背中に手を回し、落ち着かせるようにさすってくれる。

「ちょっとくらっとして……」

周囲を心配させたくない。倒れるなら、自室に戻ってからだ。私はなんとか意識を繋ぎ止めようと、目を瞑って必死に深呼吸する。

「けど、大したことないから」

笑顔を作って、無理に立ちあがろうとする。けれど、それが間違いだった。

どさり、と。

世界が傾き、床が急接近する。

「っ?!おい、千歳──!」

遼次の手が、ひんやりと額に触れる。

「おまっ……すごい熱……っ」

信じられない、というふうに顔を歪める遼次。
霞む視界の中、他のメンバーも、なんだなんだ、と私の周りに集まってくる。

そんな中、たった1人だけ、遥風はこちらを見向きもしなかった。喉の奥が、ぎゅっと締め付けられる。

ただ、無言で舞台袖を後にする遥風。その背中が、遠ざかる。

ぼんやりとした視界の端から彼の姿が消えたのを最後に、私の意識はぷつりと途切れた。