衝撃に呑まれたまま、曲は進んでいく。
そして気づけば、ダンスブレイクパートへ。

センターに飛龍、左右には千歳と遥風。
『SYNDICATE』グループの精鋭ダンサー3人。

センターにいないにも関わらず、遥風の存在感は圧倒的だった。

動きの一つ一つが息を呑むほど綺麗。複雑で細かく、そしてとにかくリズムが速いダンスブレイクの振り付けは音に合わせようとすると動きが小さくなりがちだが、彼は全ての動きを驚くほどはっきり魅せてくる。

その前髪の目にかかった具合、衣装のはだけ方まで、計算したかのように完璧だ。

ふっ、と時折狂気じみた笑みを浮かべたり、挑発的に舌を出し見下ろしたり、下唇を噛んで顔を歪めたり。

細部まで完璧に作り込まれた表情管理に、同性ながらドキッとしてしまう。

そして、ダンスブレイクの後はついにラスサビ。

遥風が、ようやく再度センターに進み出る。

『I ain't the hero, I ain't the light』

魂を震わす、遥風の圧倒的なスキルフルボーカル。

エマプロ3期のセンター適正で見ると、天鷲翔の右に出るものはいないと思っていた。

けれど、それが完全に覆された。

遥風のボーカルに、榛名千歳がハイトーンのシャウトを重ねる。

テイストの違う2人の声が、殴り合うようにぶつかり合い、それでいて驚くほどの調和を見せている。

千歳のハイトーンボイスも圧巻だった。男で出せる人は至極珍しい音域だからこその迫力。

けれど、やはりそれ以上に耳に焼き付くのは──遥風の歌声だった。

俺より目立つことなんて、許さない。

ドロドロとした狂気的な執着さえ感じる、圧倒的なパフォーマンスを前に、俺は評価する立場を忘れて1人の観客として見入っていた。

──完璧な覚醒、だな。

最後の一音が、鳴り終わる。

静寂。

スタッフ、参加者、審査員。
しばらく、誰も微動だにしなかった。
まるで、映画の余韻に浸るかのように。

「……歴史的な瞬間だね」

誰かが呟いた。

まったく──本当に、これを自分なんかが評価してもいいんだろうか。
未熟さを痛感しつつ、俺はとにかくこの感動を1番に伝えたくて、マイクへ手を伸ばすのだった。