ああ、早速パフォーマンスか。
ふっ、と照明が落ち、静けさが張り詰める会場。
その静寂を溶かすように、流れ出す音楽。
小洒落たバーで耳にしそうな、ジャズ・ピアノの旋律──。
『SYNDICATE』原曲には無い要素だ。オリジナリティアピールのために、追加してきたか。
スポットライトの下、ジャケットの襟を正し、手袋をはめ、悠然と身だしなみを整える。
その洗練された動作の主は──榛名千歳。
天使のような中性的なビジュアルに、確かな実力を併せ持つ彼。
視聴者人気の出そうな彼を冒頭に配置することで、観客の目を引く作戦か。
カメラが寄り──アップで彼を捉える。
振り向く彼。
相変わらず、何度見ても感心してしまう完璧なビジュアル。
その危うげな美しさは、完全に致命的だ。
呼吸を忘れ、見惚れていたその瞬間──彼の表情が変わる。
紳士然とした佇まいから一転、すっ、と冷たく目を細め、唇がわずかに動いた。
『Listening?』
その囁くような一言で、パフォーマンスの幕が上がる。
小洒落たバーの隠し扉の向こうには……裏社会の犯罪組織の取引所。
高貴な空気から一転、ハードコアな雰囲気を醸し出す演出へ。
ベースが強い印象を持つ、スローテンポなイントロが、その凄まじい威圧感を強調する。
榛名千歳からバトンを受け取り、歌い出しを担当するのは灰掛遼次。
彼の口が開いた瞬間──
ざら、と鼓膜を撫でるようなハスキーな低音ボイスに鳥肌が立った。
畳み掛けるような、怒涛のラップアレンジ。
このパートアレンジは、レッスンで1度耳にしたことがあるものの、その衝撃は色褪せない。むしろ、ブラッシュアップされて更に強烈になっている。
嘲るような、挑発するような、刃のようなフロウ。
神がかり的なリズムキープ、少し酔っ払ったような、狂気を孕んだ声色。
そして、その衝撃を飲み込む間もなくBメロへ。
その場の空気を一変させる、腰に響くような低音ボイスが響く。
グループ最高位、新海飛龍のお出ましだ。
彼にしては珍しく、前髪を下ろしたスタイリングがダークな雰囲気を醸し出す。
甘く、色気を滲ませた声色。普段の天真爛漫な彼のキャラクターからは想像もできない大人の色気。
その体格の良さも相まって、圧倒的なオーラを放っていた。流石はグループ最高位と言ったところだろうか、彼が中心に来た瞬間にグループ全体のダンスがバシッと締まるような感覚。
飛龍からバトンを受け取るのは、進藤祐希。やはり飛龍の直後だと見劣りするか、歌声の粗さが目立つ。
息が切れる音を、マイクが拾ってしまっている。
けれど、それが普通だ。
この楽曲のダンスは最高に難易度が高く、パートが一人分減ったこともあって息をつく暇がない。
全くもって疲労を見せない、他のメンバーが異常だといえる。
そして、次は相馬一斗。
勢いよく歌い出したはいいものの、途中で頭が真っ白になったのか、むにゃむにゃ言いながら気まずげに笑う。
歌詞が飛んだ……そうか、ここは確か、今まで菅原琥珀のパートだったところだ。
昨日入れたばかりだから、飛んでしまうのも仕方ないけれど……パフォーマンスの空気を壊すな。もっと表情管理しろ!
審査員席全体に張り詰めた空気が流れかけた、次の瞬間。
すぐさま、彼のパートをカバーしたのは榛名千歳だった。ほっ、と安堵する審査員席。
榛名千歳は、大人しそうに見えるが、意外にもグループによく貢献していた。
グループを引っ張る皆戸遥風、そんな彼を有能にサポートする榛名千歳という構図が印象深い。
15歳と参加者の中でも若いのに、いつもどこか大人びている雰囲気の彼。
グループのいざこざを仲介したり、他のメンバーに歌やダンスを教えたりと、本当によく頑張ってくれていた。
たまにすれ違った時とか、愛想よく挨拶もしてくれるし、笑顔も可愛いし……彼には好印象。
