痛いほどの緊張感が漂う、エマプロ3期二次審査会場。
俺、乙瀬凛也は、ステージに向かい合うように設置された審査員席に腰を下ろした。
エマプロ1期で、アイドルグループ『SiESTA』として芸能界入りしてはや10年。
今回初めて、人を審査する立場になって分かったことといえば。
……全員上手すぎて、自分なんかが評価していいのか分からなくなる、ということ。
『お前人のこと言えんやろ』とか『なんやこのオッサン』とかアンチコメントきたらどうしよう。
参加者たちにも実は心の中で見下されてたりしそうだし、下手に批評できない……。
……と、そんな臆病な俺が、唯一指摘してしまった参加者がいた。
皆戸遥風。
今日トップバッターでパフォーマンスを披露する、『SYNDICATE』チームをまとめてきた彼。
黒髪黒目の正統派王子ルックス、ダンスも歌もバランス良くこなすオールラウンダー。
アイドル経験者ならではの大きなファンダムも持ち、デビュー有力候補である彼。
このままでも充分上手いんだけど、何故だかなかなか吹っ切れない印象だった。
まるで、自分の実力を自分で決めつけ、セーブしてしまっているような。
君、絶対もっとできるでしょ。何に怯えてるのか知らないけど、もっと目立ちたがろうよ。
そんな焦れったさが溜まりに溜まった結果、ついに言ってしまったのだ。
俺が名指しした瞬間、彼の表情がピシリと固まったのを鮮明に覚えている。
炎上するかなぁ……皆戸遥風のファンダムデカいし、やめときゃ良かったかな。
ちなみにそれ以降、俺は自分の仕事のスケジュールが詰まっていて、彼のチームの練習に顔を出せていなかった。
だからこそ、めちゃくちゃ怖い。
俺の一言で彼の心が折れたとかになってたら、おそらく全責任が俺に来る……炎上怖い。
皆戸遥風のファンってガチ恋多いし、刺されるかも。
怯えながら、『SYNDICATE』のメンバー表を凝視していると──ふと、違和感を覚えた。
1、2、3、4……あれ。
グループの人数って、9人じゃなかったか。
内心首を傾げつつ、隣に座る朱那さんに尋ねる。
「あの、『SYNDICATE』グループ、1人足りなくないですか?」
「あぁ、凛也聞いてなかったっけ。メンバーの1人、菅原琥珀がスキャンダル起こして辞退になったのよ。それも、昨日」
「昨日?!」
思わず素っ頓狂な声を上げる。何それ、俺が参加者だったら泣くんだけど。
「代役とかですか?」
「ううん。番組側は何もサポートしない方針らしいから。芸能界ではアクシデントも頻繁に起こり得るからね〜。自力で対応できるようにならないとって」
「はぁ〜?」
思わず眉根を寄せてしまう。俺の時からそうだったけど、この番組鬼畜すぎる。
話を聞くに、パート振りなんかも全部付け直しになったらしい。
……尚更、応援してしまいたくなる。
そんなふうに思っていたところで、舞台袖のスタッフが軽く手を上げて合図をしてきた。
「間もなく本番いきまーす」
