「チームの雰囲気壊さないように今まで味方してきてやったけど……バカな真似ばっかして、チームに迷惑かけるなら話は別だよ」

ふっ、と嘲笑する。

「どんな事情があんのか知らないけど、実力で勝負しなよ。もし何かの拍子で炎上したら、チーム全体に迷惑がかかるのわからない?」

まずは、こうして遥風の精神をズダボロに引き裂く。
どん底に突き落として、ヘイトを集める。

そして。

「悔しいなら、ステージに這い上がってでもして私を食ってみなよ。まあできないだろうけどさ」

負けず嫌い。

彼の根本にあるその性格を、私は知ってる。

圧倒的な才能と周囲の圧力を前に、自分の価値を見失い、相手を引き摺り下ろすことにばかり思考が走っていた彼。

その負けず嫌いを、怒りを、激情を、ぶつける先を変えてみたならば。

「せいぜい頑張って。じゃあ」

きっと彼の持つ負のエネルギーは、芸術的才能として、鮮烈に爆発する。

「……待てよ!!」

グイッ。
立ち去ろうとしたところ、乱暴に腕を引き戻された。
そのまま胸ぐらを掴まれるかと思って、反射的に身構えたけれど。

遥風は、私に暴力は振るわなかった。
その優しさが逆に胸にちくりと刺さる。

「……大嫌いだよ、お前のこと」

ぽつり、と絞り出したような小さな声。

何かを返す間もなく、遥風は冷たく私を見下ろした。

「だから、死ぬほど後悔させてやる。卑怯な真似無しで、実力でお前を霞ませる。俺を裏切ったのが間違いだったって、泣きついてくればいい」

その目には、常に不安に揺らいだ繊細な少年の怯えは無かった。
大きな裏切りを乗り越え、その怒りを力に変えた──まるで、そう、裏社会を生き抜いたかのような覚悟。

これでいい。

彼の大きな才能をこの手で潰してしまうくらいなら──私が、彼の『負のエネルギー』を受け止める的になる。

私を、嫌いになって。

そして、踏み台にして──もっともっと高く舞い上がって。

私から静かに手を離し、踵を返して去っていく遥風の姿を見つめる。

彼の悪戯っぽい声音が、甘やかな視線が、純粋な笑顔が、私に向くことはもう二度とないんだろう。

だけど、これで良かったんだ。

私はそう自分に言い聞かせ、軽くため息を吐き出したのだった。