「協力するとか言っといて、結局栄輔を助けたかっただけなんだろ。面白いよな」

「聞いて、遥風。私は遥風のために──」

「何も知らないくせに」

遥風の冷たい声音に、全身が凍るような思いがした。

確かに、私は彼の意図を何も知らない。
それなのに、私自身の勝手な正義感を振りかざして、彼を裏切った。
完璧に隠し通そうと思ったのに、それさえできず、結果的に彼を深く傷つけた。

『遥風のために』だなんて自分の行動を正当化しているけれど、全ては『遥風がデビューする姿を見たい』という私の欲から始まったこと。

完全に、私の責任でしかない。

俯く私に、遥風は続ける。

「俺がカメラに気づかず衝動的に栄輔の衣装を切り裂くとでも?」

思わず顔を上げた。

怒りと悲しみがごちゃ混ぜになった、歪んだ微笑を浮かべる遥風。

「カメラくらい切ってある。こんな手を使ってでも俺が栄輔に勝たないと、お前が──」

そこまで言いかけ、思い直したように口をつぐむ。

……『お前が』、何?

聞き返そうとしたけれど、遥風の大きなため息で遮られる。

「……もう、いい。どうせ今の俺じゃ、何をしても自由になんかなれない」

やけになったように、ぐしゃっと髪を乱す遥風。

何をしても、自由になんかなれない。

その言葉に、私の中で一つの確信が生まれた。

彼はきっと、誰かに操られている。

その誰かが裏で、皆戸遥風と冨上栄輔の競争を促している──遥風に対する、脅しをもって。

心臓の奥が凍りつくような気がした。

彼の事情の詳細は、わからないまま。

ただ一つ確かなことは、私の勝手な行動が、彼をここまで追い詰めてしまったということ。

アイドルの遥風を見ていたいからって、エゴを押し付けて、傷つけて。

今、開花しかけた彼の才能が、目の前で潰れそうになってる。

……このままじゃダメに決まってる。

どうする?どうしたらいい?

ここまで深く傷ついて、自信を無くしてしまった遥風を──どう、助ければ。

脳内の知識を総動員させて、ふと、ひとつの方法が脳裏をよぎった。

……これしかない。

私は覚悟を決めると、演技のスイッチを入れた。

すっ、と冷たく目を細めて、言い放った。

「しょーもな」

空気が、凍りつく。
遥風は動きを止め、ゆっくりと顔を上げた。

「……あ?」