緊張で強ばった体の力が、ふわっと抜ける。
「……はぁ」
張り詰めた空気を吐き出すように、小さく息を吐いた瞬間。
バサッ。
上から、乱暴に布団が捲られる。
「っ!」
「やっほー」
私の顔の横に肘をつき、添い寝するような格好になる。紫紺の瞳が、楽しげな光を浮かべ、私を見下ろす。
遥風とは違う、知らない男の子の香りに、バクバクと心臓が高鳴って止まらない。
「上手くやったろ、俺」
低く甘い声音が、至近距離で耳朶を打つ。
「てか、聞いた?王子様が怒って探してるってよ。お前何したの?」
くすくすと楽しそうに笑う京。
「……知らない」
あんまり目を見続けると、すぐ絆されちゃいそうで危険。ふい、と顔を逸らして、枕に顔を埋める。
「ふーん」
次の瞬間、ギシ、と布団が軋む音。
ぐい、と勢いよく肩が引っ張られ、無理やり仰向けにさせられる。その途端、至近距離に京の顔。
私をベッドに閉じ込めるように、まるで捕食者が獲物を仕留めるみたいに、覆い被さってくる。
「お前さ、キスマつけて部屋帰ってきたことあったよな」
その言葉に、さあっと血の気が引いた。
嘘……あの時の、バレてたの?
京は、私になんか興味ないから、どうせ見てないだろうと思ってたのに。完全に油断してた。
「あれ、だれ?やっぱ皆戸遥風?」
至極楽しそうに目を細め、私を追い詰めていく。
「ね、教えてよ。あいつは、お前が女だって知ってんの?」
まだちょっと濡れた黒髪が、おかしいくらい色っぽい。
濃く香る、依存してしまいそうな心地良い香水の匂い。
まともな人間じゃない、と直感的に思わせる、危なげな光が瞬く瞳。
一次審査の時の彼のパフォーマンスで感じた、くらりと目眩がしてしまいそうな程の、致死量の色気。
それを間近で集中的に受けて、心臓がギュッと切なく締め付けられる。
視覚的な情報を無くそうと顔を逸らそうとするけど、すぐに顎を掴まれて、強制的に視線を絡め取られる。
「目逸らさないの」
低く甘い囁きが、耳の奥まで溶け込んでくる。
「……!」
心臓が跳ね上がる。強制的に、視線が交錯。
じっ、と見つめ合う時間。顔にこれ以上ないくらい熱が集まって、その刺激の強さに耐えきれなくて思わず目を逸らす。
「……なに」
「や、だ……」
絞り出すような声で拒否すると、視界の端で、京が欲を抑えるように下唇を噛んだのが見えた。
「何お前、マジかわい」
次の瞬間、両手を頭上でまとめ上げられ、ぐいっと京の顔が寄る。
「……っ?!待っ」
「ちゅーしたい、舌出せ」
いやっ、早い早い早い早い。
遥風の時より、手を出してくるのが早すぎる!
必死に身を捩るけど、京の腕の力は想像異常に強くて、まともに抵抗できない。
このままじゃ、本当に襲われる……こうなったら、切り札を使うしかない。
私は、キッ、と京を睨みつけ、言い放った。
「京が毎晩女の子と通話してること、番組側にバラすから……!」
