本当に私、バカだ。普段ならもっと慎重に動くはずなのに、疲労と油断が重なって、軽率な行動をしてしまった結果の男装バレ。
今更どれだけ後悔しても、何も変わらない。
絶望に打ちひしがれ、言葉も出ない私と対照的に、ますます楽しそうな京。
「いやマジ、引くほどかわいーね。最初会った時から、この子が女の子だったら俺やべーだろうなって思ってたけど……うん、やっばいわ」
口元を覆っても、その声音でニヤけているのを隠しきれていない。
女好きの彼のことだから、私が女だって知ったらとにかく喜ぶだろうとは思っていたけど。
これ多分、人生最大のミスだ、本当に終わった……。
京の私を見る目が、完全に変わっている。
今まではその瞳に私が映っているかどうかすら怪しかったのに、今はもうその視線が甘ったるくて仕方がない。その声音も、通話で女の子に向けているような、とろけるような甘さが滲んだものになっている。
つまり、完全に彼の『恋愛対象』に入ってしまったってこと。
今度こそ、マジで無料風俗嬢ルートだ……。
何も言えずに項垂れる私。
と、その時。
コンコンッ。
軽いノックの音が響き、ビクッと肩が震えた。
「もしもしー?俺」
扉越しに聞こえる、柔らかな声……椎木篤彦?
ヤバい、今この姿見られたら、終わる……!
焦る私を見下ろす京。
不意に、ぐいと引っ張られる。
「取り敢えず、俺のベッド隠れときな」
耳元でこそっと囁かれて、私は京のベッドに視線をやる。
……ぐっちゃぐちゃだけど、背に腹は変えられない、よね。
私は言われるがまま京のベッドに潜り込んだ。
と、同時に京が鍵を開ける音。
「どしたー?篤彦くん」
少しの動揺も見せずに、いつも通りの調子で話す京。
ベッドの中、めちゃくちゃ京の匂いがする。
スパイシーでお洒落な香水の匂いに、微かにシャンプーの残り香。
「ああ京、急で悪いんやけど、千歳くんおる?」
急に出てきた私の名前に、心臓が跳ねる。
篤彦のことだから、きっと京に用があるんだろうと思ってたら……なんで私?
「いない。練習じゃね?」
「ふーん、千歳くんおらんのに誰と喋ってたん」
「女と通話してた」
篤彦の鋭い問いを、さらっと流す京。
声色ひとつ変えずに、完璧な演技。
「何?なんで千歳探してんの?」
「いや、ちょっとな。聞きたいことあって……おらんならええわ」
そんな篤彦の言葉と共に、ドアノブに手をかける音が響く。
ああ、ようやく居なくなる。
と、安堵しかけたのだけれど。
「……そういや、皆戸遥風が千歳くんのことめっちゃ探しとったわ。ものっそい剣幕で。千歳くん、捕まったら殺されるんちゃう?」
篤彦の言葉に、ひゅっと心臓の温度が一気に下がった。
遥風が……?
まさか、私が彼を阻止したことがバレた?
それとも、引き裂いたはずの衣装がなくなっていることに気付いた?
「おお……まじ?」
京の声が、わずかに笑いを含んでいた。
「ってことで、お前も見かけたら言うたってや」
「おっけーおっけー」
そこで、篤彦がようやくドアを閉める音。
──色々懸念は残るけど、取り敢えず今は、助かった?
