さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

京のルームキーで、ドアのロックが開く。

中を覗いてみると、意外にも広めな部屋だった。
シンプルな木製の二段ベッドが一つ。下の段は既に京が使っているようで、無造作に置かれた枕や漫画本、スマホの充電器なんかが生活感を醸し出していた。
他にも、簡易的なタンスやデスクなんかが置かれ、奥にはトイレやシャワー室に続く扉がある。

……とはいえ、この環境で男装を隠し通すのは恐らく無理だ。

もう逃げ出しちゃおうかな。
いやいや、そんなことをしたら琴乃が犠牲になる。

と、そんな私の葛藤を遮るように、静かな部屋に突如としてLINEの着信音が響き渡った。
京のスマホだ。
彼はポケットから薄いスマホを取り出し、着信画面を確認する。

「……玲奈か」

……玲奈?
まさか、彼女?
オーディションに参加しているっていうのに、女の子とそんなに気軽に連絡を取っていいものなのだろうか。
パッと見、部屋にカメラは付いてなさそうだけど……だからいいというわけでもない。交際がバレたら炎上必至だろうに。

しかし、京は私の存在なんて気にも留めない様子で、当然のように通話を開始した。

「はーい、俺」

『京〜!毎朝モーニングコールしてって約束したじゃん!もう7時なんだけど!』

スピーカーから聞こえてきたのは、弾むような女の子の声。

「あー……寝てたわ、ごめんごめん」

『はあ……どうせ昨日夜遅くまでアニメ見てたんでしょ』

「違いまーす。玲奈のチャンネル見てました。あの北海道Vlogのやつ。お前、マフラーマジ似合うよね。可愛い」

『え、そう?やっぱ男って白マフラー好きだよね〜』

……。

……慣れている。

女の子の扱いに慣れすぎだ。
私と話していた時と明らかに違う、甘く優しい声のトーン。憎めない無邪気な笑い声。

まるで息をするのと同じくらい自然に、相手を心地良くさせる言葉を紡ぐ。
その手慣れたやり取りからは、今までの女性経験の豊富さが容易に窺える。

しかも、会話の内容から察するに、通話の相手は超人気インフルエンサーの三園玲奈だ。

峰間京、奔放な雰囲気を漂わせているとは思っていたけど……なるほど、そういう感じね。

「とりあえず、デビューできたらすぐお前ん家行くから」

『うん、匂わせして待っとく♡』

「やーめろバカ。じゃーね」

『ばいばーい』

京は、会話にひと段落つけて通話を切った。そして、ふと私に視線を移し、一言。

「あら、まだいたんだ」

……ほったらかしにされてたの、こっちの方なんですけど?