スタッフ姿のまま、私はそっと自室へと滑り込む。
ドアを閉めた瞬間、全身から力が抜けた。思わず、その場にへたり込んでしまう。
精神的にも、肉体的にも、極限まで追い詰められた夜だった。
昨日の追い込み練習の疲労が消えることはなく、むしろ蓄積され、全身に重くのしかかっている。
視界が、ぼんやりと滲む。脳内は霞がかったようにぼやけ、焦点が定まらない。
こんな状態で、果たして本番に臨めるのだろうか。
仮眠取ろ。
そう思って、壁に手をつきふらりと立ち上がった、その時。
「……え」
静寂を裂く、戸惑いの声。
顔を上げる。
目の前には、ちょうど今シャワーから出てきた様子の峰間京。
タンクトップの上に無造作にパーカーを羽織った部屋着姿。
髪はまだ濡れていて、首筋を細く滴る水滴。
……は?
なんでこんな時間に起きてんの?
全身の血の気が、さぁっと引いていく音が聞こえた。
「……ええ??」
何も言えず硬直する私を指差す京。
部屋に入ってきた『謎のスタッフ』の正体が、『榛名千歳』だと認識したんだろう。
その声音からは、先ほどの戸惑いは消え、むしろ面白くて堪らないというように弾んでいた。
……やばい。
やばいやばいやばいやばい。
「お前、女の子……?!」
「違っ、違う!女装して遊んでただけ!!」
我ながら、苦しすぎる言い訳。
いつもならもっとマシな誤魔化しができるはずなのに、疲れてるからか、頭が全然回らない。
「ははっ、やべー言い訳」
「ホントだから……!」
「いや、無理無理。もう答え出てるから。つまり、千歳って……」
京がニヤ、と唇の端を持ち上げる。
「男装女子、だったんだ?」
──終わっ、た。
