彼は早起きしたのか、もうだいぶ身支度を終えシャキッとしている。

うわぁ、私、篤彦のこと苦手なんだよなぁ……。

マスクの下でちょっと表情を引き攣らせつつ、焦りを押し隠して淡々と説明する。

「ちょっと、スポンサーとの関係がありまして。大人の事情ってやつですね」

じっ、と私を見つめてくる篤彦。探るような視線に、少し冷や汗が滲む。

やばい、何か勘付かれた……?

でも、マスクしてるし、声も違うし、そう簡単に気づかれないはず。

少しの沈黙の後。

「ま、分かりました。朝からお疲れさんです」

ニコッ、と笑って軽くそう言い、挨拶を返す間もなくバタンと扉を閉められる。

……なんとか、なった?

思わず、はあっと安堵のため息を吐き出す。

これで、私の任務は本当に完了だ。
任務っていっても、ただ私がしたくてやってたことだけど……。

それにしても、長かった。緊張が抜けたことで一気に眠気が襲ってきて、頭がふわふわする。

取り敢えず、どこかで着替えよう。

スタジオ棟の多目的トイレで着替えようかと思ってたけど、今は疲れすぎてスタジオ棟まで歩くのも億劫だ。

ワンフロア上にある、自室で着替えよう。
どうせルームメイトは毎日寝坊してるから、きっと大丈夫。

私はそう考えて、人気のない廊下をふらふら歩き、自室へ向かったのだった。