……ああ、さっきの舞台監督がディレクターに私のことを聞いたんだ。
全身がすくんで、逃げてしまいたくなる。
けど、ここで逃げては、不法侵入者として徹底的に調査され、私の無断外出がバレるだけ。
私はスッとマスクを外すと、上目遣いでディレクターを見つめる。
瞳には、申し訳なさそうな色を浮かべて。
怯えているように、唇を震わせ、庇護欲を掻き立てるか弱い声音で。
「わ、私……ただのバイト、です。何かご迷惑、おかけしちゃいましたか?」
うっ、と息を詰まらせるディレクター。
頬を染めたり目を見開いたりして私を凝視する、周囲の関係者たち。
「なんだ、あの可愛い子……」
「パワハラ受けてんのか?泣いちゃいそうじゃん」
視線の先が、私の向かいに立つディレクターに集まる。
「い、いやいや、いいんだよ。怒ってるわけじゃないんだ」
周囲からの責めるような視線を受け、慌てて手を振るディレクター。
……あんまり目立っても、良くない。そろそろ退散しよう。
「すみません……あのっ、これを持っていけばいいんですよね?」
「あ、ああ……」
焦るディレクターの横をさっさと通り過ぎて、私は段ボールを指定された場所へ運び込む。
……はぁ、ヒヤヒヤした。
心臓がバクバクと高鳴っている。チョロい人ばっかりで助かったぁ……。
自分の顔は嫌いだけど、こういう時に役立ってくれることに関していえば、捨てたもんじゃないと思う。
エマの中に侵入した私は、そのまま他の関係者の目を掻い潜り、寮棟へ向かった。
建物の中にも、よく番組スタッフは歩いているから、不審ではないはず。
私はマスクと帽子で顔を隠しながら、目的の場所へ向かう。
寮棟、2階。
とある一室の前で足を止めた私は、コンコンコン、と軽くドアをノックした。
数秒の間の後、ドアを開けたのは、冨上栄輔だった。
先ほどまで寝ていたのか、髪はボサボサで寝癖がついていて、表情もまだかなり眠そう。
「スタッフさん……?どうしたんすか?」
寝ぼけ眼を擦りながら聞いてくる栄輔に、紙袋を手渡す。
「今日の衣装が、少し変更になりまして。新しいものがこちらですね。発表までご自身で保管していただく形になると思います」
スタッフらしく、ハキハキと説明する。栄輔は寝ぼけながら、なんとなく頷いているようだった。
ごめんね、こんな朝早くに、と心の中でちょっと申し訳なく思う。
と、その時。
「珍しいですね〜、衣装変更なんて。何かあったんですか?」
ひょこ、と栄輔の背後から顔を出したのは、栄輔のルームメイトである椎木篤彦だった。
