「おい、そこのスタッフ!その段ボール、こっちだから」
白む空。エマの正面入口の真反対に位置する、道具搬入口にて。
「……」
「おい、聞いてんのか?」
顔を上げる。
少し熱っぽく、瞳を潤ませて。頬を染め、息を荒く。
か細い声、トーンまで計算づくで。
「急に、体調が悪くなってしまって……一瞬、外の空気だけ吸ってきてもいいですか?」
「お、おう……?」
惚ける舞台監督に、軽く会釈して搬入口から外へ。
サッとマスクを引き上げ、帽子を目深に被って……してやったり、と心の中でほくそ笑む。
道具搬入口から、道路を一本挟んだ向こう側が、待ち合わせの駐車場。そこにはもう既に、目印のピンク色の車が止まっていた。
ピンク色の車とはいえ、見ただけでは分からないんじゃないかと心配していたけど……杞憂だった。
だって、めちゃくちゃどぎついピンク色なんだもん。
サロンの雰囲気は大人っぽかったのに、車は趣味全開って感じだなぁ。
ちょっと呆れつつ、車に歩み寄ると、その窓が滑らかに開いた。
中から顔を出したのは、涼介さん。
「大胆なお嬢さんねぇ」
スタッフ姿の私を見て、揶揄うようにそう言ってくる。
その手には、紙袋。
差し出されるそれを受け取り中身を確認すると、元々の栄輔の衣装とほぼ同じテイストの王子様系ステージ衣装。
「あ……ありがとうございますっ!迷惑かけて本当にごめんなさい」
感激して勢いよく頭を下げると、涼介さんはにっこりと微笑んで言った。
「困ったことあったら頼ってって言ったじゃない。頑張るのよ、今日の審査♡」
ひらひら、と手を振ると、涼介さんの車はそのまま走り去っていった。
涼介さん、本当にナイスすぎる。最初に会った時は不信感しかなかったけど、今やもうめちゃくちゃ頼りになるただの強い味方だ。
紙袋をギュッと胸に握り締め、太陽が少し顔を出した寒空に向かって白い息を吐く。
私も、怪しまれないうちに戻らなきゃ。
紙袋を背に隠して、道具搬入口からエマへ戻る。
すると、先ほどの舞台監督の人と、ディレクターらしき立場のお偉いさんが何か話をしていた。
ディレクターっぽい人は、私の姿を見るなり、ゆっくりと歩み寄ってくる。
ギュッ、と心臓が緊張で締め付けられる。嫌な予感。
「ああ、戻ったか。……確かに見慣れない顔だな。名前は?」
