『発表が明日じゃ、郵送は間に合わないわよね。直接持っていくにしても、確かエマは、外部からの荷物持ち込みには厳しい検閲がかかるわ。用途を聞かれたら、ワケを話さなきゃいけなくなってしまう』
涼介さんの冷静な声音に、ハッとする。
いくら業界1のカリスマスタイリストだからといって、用事も無しにズカズカとエマに入ってくることはできないんだ。
私は少し沈黙して、考え込む。
検閲が厳しいなら、他の荷物に紛れ込ませることもできそうにない。
涼介さんに、これ以上無理をさせるわけにはいかないし。
……こうなったら、私が『外に出る』しかない。
「……私、なんとかして抜け出します。エマの外で落ち合うのはどうですか?」
私の提案に、涼介さんが驚いたように息を呑む音が聞こえた。
『千歳ちゃん、大丈夫?オーディション参加者の無断外出は厳禁だって聞いてるけど?』
うん、それは御法度。
飛龍が試みたと話した時の遥風の反応の厳しさを見れば、きっとかなり重い処分になるんだろうと推測できる。
けれど。
「……上手くやります」
このまま何もせずには寝付けない。
私の覚悟が伝わったのか、一瞬の間の後、電話越しに呆れたようにため息を吐く涼介さん。
『大胆ねぇ。一体誰に似たのかしら』
突拍子も無い行動を取ってしまうあたりは、榛名優羽に似たかも。
そんなことくだらないことを思いながら、私は話を進める。
「何時くらいがいいですかね?」
『そうねぇ。じゃあ朝4時にエマプロの裏口近くの駐車場は?』
「ありがとうございます。本当に助かります」
私たちはそう約束を交わすと、電話を切った。
我ながら、バカなことやってるなって思う。
知らんふりして傍観しとけばいいのに、何をそんなに必死になっちゃってるのか。
……もしかして、遥風のこと、恋愛的に好きなのかなぁ。
深夜だからか、そんなぶっ飛んだ考えさえ浮かんできてしまって、私は雑念を振り払うようにため息を吐いた。
そんなことより、どうやってエマを抜け出すか、だ。
考えた時、はじめに思い浮かんだのは、新海飛龍の手法。
『関係者に変装しよ!ってことで、衣装倉庫にスタッフユニフォーム盗み行ってん』
スタッフに変装する、という手法。
新海飛龍の口から聞いた時は、彼は身長も高くて存在感があるから、普通にバレそうだなと思った。
けれど、私はどうだろう。
シークレットシューズを脱げば、身長を変えられる。ウィッグを外せば、髪型だって変えられる。変装には、かなり好都合だ。
……一か八か、やるしかない。
深呼吸をひとつして、覚悟を決める。
頑張ろう。
私が遥風の暴走を止めるって、決めたんだから──。
