さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


本能が、警鐘を鳴らしていた。このまま、こいつと同じ空間にいてはいけない。

私はほとんど反射的に立ち上がると、ベッドを降りた。

「……お前が寝るまで戻んないから」

冷たい声音でそう言い放つと、踵を返し部屋を後にする。

京の表情は、暗くてよく見えなかったけど……絶対に、ろくでもないことを考えてる。

今までは私に実害が無かったから良かったけど……もし本当にヤバそうなら、部屋を変えてもらおう。

そんなことを思いながら、私はふらふらと夜中の廊下を歩く。

京が寝るまでは部屋に戻りたくない、とはいえ特にやることもない。
ちょうどいい、明日の収録用のステージをちゃんと確認してこよう。
今日のステージリハーサルの時は、遥風が気掛かりできちんと見れていなかったし。

そう考えた私は、寮棟からスタジオ棟へ移動し、エレベーターでステージのあるフロアへ下がった。

ポン、と軽い電子音と共に、扉が開く。

いつもは賑わっているスタジオ棟も、この時間帯では人気がまったく無く、ちょっと不気味な雰囲気。

内心少し怯えながら、舞台裏の廊下を歩く。

と、その時。

──ガタッ。

上手側(かみてがわ)の舞台袖から、何か音が聞こえた。

ビクッと肩を震わせ、そちらに視線をやる。こんな時間に、同じフロアに誰かいたなんて。

一体誰が?

息を潜め、そっと舞台袖を覗く。

そして、その姿を見た瞬間──息が止まった。

舞台袖に置かれていた衣装ラックの側に立つ、見慣れた人影。

皆戸遥風。

その手には、ハサミのような刃物が煌めいている。

──ちょっ、え、ちょっと待って?

全身の血の気がさあっと引く心地だった。

衣装ラックのそばでハサミ、って、嫌な予感しかしない。

反射的に、機材の物陰に隠れた。

ドキドキと高鳴る心臓。息を潜めないといけないのに、呼吸が乱れて上手くいかない。

衣装ラックのそばから離れず、何か作業をしているようだった。

音を立てないように気を張っているせいか、その時間が、やけに長く感じられる。

けれど、幸い遥風は私の存在に気づくことなく、作業を終える。

ハサミなんかが入っていそうな袋を抱えたまま、ツカツカと乱暴な足取りで舞台袖から去っていった。

逃げるように、非常階段を上っていく音が遠ざかる。

……確認しなきゃ。