私が目を瞬かせている間に、京は携帯を放り投げ、ため息をつきながらこめかみに指を押し当てる。
「……やべぇな」
いや、やばいのはあなたの方では??
さすがにちょっと引いた私は、上段ベッドから少し身を乗り出していた体をそっと引き、録音停止ボタンを押してスマホを伏せる。
……すると。
「な、千歳」
ベッドの下から不意に名前を呼ばれ、思わず心臓が跳ねた。
……え、何?今まで彼から私に話しかけてくることなんて全然無かった。
篤彦と一緒に話しかけてきたときの一件くらい。
驚きで硬直する私に、京が言葉を続ける。
「切り時だと思わない?」
……まさか、ずっと盗み聞きしてたの、バレてた?
思わず引き攣る表情。京は、なんでもないようにさらっと続ける。
「俺と関わる女の子、どんどんおかしくなっちゃうんだよね。最初は普通だったのに、どんどんズブズブハマってって、辛そうになってくの。で、そろそろ飽きたなって思ったら、切る」
淡々と言葉を続ける京。その声音の抑揚の無さに、少し鳥肌が立つ。
「……その、切る時っていうの?女の子をどん底に突き落とす時が、いっちゃん楽しいよね」
……はぁ?
ベッドの下段にいる京の、表情は見えない。けど、彼の性格のヤバさは痛いほど伝わってくる。
遥風、京に対して、貞操観念終わってるとか性癖ヤバそうとか色々言ってたけど……ただの偏見じゃなかったらしい。
「で、最近、初めはつれない態度だった子を、じわじわ惚れさせて、突き落とす方が楽しいかなって思ってきたのよ」
「……」
「ほら、最初は『軽蔑してます〜』みたいな顔してるくせに、結局迫られると負けちゃって、どんどん夢中になっていって、最後は『私だけを見て!』とかなんとか言っちゃうの。マジ可愛くない」
「……性格終わってんね」
人の恋心を弄ぶことを、なんの罪悪感もなく、『遊び』として楽しんでいる。
思った以上に、絶対関わりたくないタイプだ。
「ね、千歳」
京の声が、少しだけ低く響く。
「お前が女だったとして、俺にハマらない自信ある?」
ゾクリ、と背筋が疼いた。
……何を言いたいの?
