時刻は23時。明日がパフォーマンスの本番だから、今日は早めに寝ようと思っていた。なのに。

『ね、京くん、次いつ会える?』

「んー、忙しいんよねぇ、最近」

『そっか……でも私、京くんに会いたい』

「えー、かわい」

緊張からかまったく寝れなくて、心なしか京のイチャつき電話が普段より耳に障る。

上で人が寝ようとしてるっていうのに、配慮しようとか思わないのかな。

いつも通り布団をかぶって音をシャットアウトしようとしたところで、ふと、アイデアが浮かぶ。

そうだ。

万が一、何かの拍子で彼に男装バレした時には、このイチャつき通話をネタに口止めしよう。

男装バレしなくても、これからはその音声をネタに色々言うことを聞かせられるかも。
掃除しろとか、通話の時はイヤホンしろとか。

ナイスアイデア。

私はすぐさま、スマホのアプリで密かに録音を開始する。

「でもさ、お前最近ちょっと連絡多いよね」

『えっ、そ、そんなこと……!』

「いや、いいのよ?俺のこと好きなんだなって伝わるし。……けどさ、俺ら、別にそういう関係じゃないじゃん」

『……っ』

さらっと湿度の無い、京の言葉。言葉を詰まらせる通話相手の女の子。

聞いているこっちがいたたまれなくなるほど、彼女の動揺が伝わってくる。

なんか……改めて聞くと、京ってマジでクズだな。

呆れを通り越して感心しつつ、私は通話内容に耳を傾けた。

「ただ、たまに会って、楽しくお喋りして、楽しいことする──それだけの関係ってこと、忘れないでねって話」

『でも、私、本当に京くんのこと……!』

「はーい、それ以上言ったらだーめ」

笑って、軽くいなす京。

『だって……』

「好きとか言っても、俺そんなん考えられないの。前も言ったでしょ」

『……』

「お前がしんどくなるだけだよ。な?」

『……分かんない。私、京くんのこと、全然分かんないよ!!』

──突然、通話の向こうから、震えるような怒声が響いた。

「うわっ、どしたの」

京が少し驚いたような声を出す。

……修羅場発生?

思わずスマホを握る手に力がこもる。

『なんでそんなに冷たいの!? いつも優しいのに、一生こっち振り向いてくれないじゃん!?』

「いやいや、そんなこと言われてもね〜」

『私はずっとずっと本気だったのに……!』

通話相手の嗚咽が混じる。

うーわ、泣かせた。最低。

京は、何も言わずに黙り込んだ。そして、数秒の間の後──

プツッ。

なんと、電話を切ったのだ。

えぇ……。