「聞いてます?篤彦くん」
目の前には、ムッと不機嫌そうな表情であざとく口を尖らせる千歳くん。あら〜、媚び売りがお上手だこと。ちょっとドキッとしちゃった。
「ごめん聞いてへんかった♡」
「……」
軽い調子で返すと、拗ねたように眉根を寄せる千歳くん。考え事してると脳が音声シャットアウトしてまうんよね。悪い癖悪い癖。
「えーと、つまり……うちのグループ、今朝1人棄権になったから、フォーメーション変えなきゃいけないってことです」
「あらま、そーらぁ大変だ」
「なんですけど、人数が偶数になって、センターが無いからラスサビが締まらないんですよ。今のところ、こういうフォーメーションなんだけど」
そう言って、手で何か図形を作って説明する千歳くん。
……申し訳ないけど、説明が下手すぎて、全くもってイメージが湧かん。
「えっと……理解力なくてごめんな。図とかある?」
そう言った瞬間、千歳の瞳に少し嬉しげな色が浮かんだ。
思わず、息を呑む。
まさか……この台詞を誘発するためのわざと分かりにくい説明?
クッソ、中学生に嵌められたわ。うっざ。
「はい、図で描いてるメモ帳あるはずです」
そう言って、メモ帳を探す『フリ』をする千歳くん。そして、困ったように首を捻る。
「あれー……食堂に置き忘れちゃいました。ほんとごめんなさい!すぐ取ってくるから、ここで待っててもらっていいですか?」
そう言うなり、さっさとその場から走り去っていく千歳。
……へぇ、なるほど。
これで、自然な流れで俺1人になったなぁ。
わざわざこんな、人気のないところまで連れて来させて。
なんや?
一体何がしたい?
何かするなら今やろ。
身構えて、何かが起こる、その時を待つ。
千歳くんが企んだ、何かがじきに起こるはず。
と、その時。
そばの階段を上がった方から、誰かの足音。
……誰か来る?
階段の方を睨む。
暗いから、その上はよく見えない。神経を集中させる。と、その時。
「うわっ?!」
階段の上方から、叫び声と共に人影が落ちてきた。飛び降りてきたのではない、何者かに、突き落とされたような。
ふわふわとした茶髪。そこまで大きくない体躯。そして何より、聞き慣れた声に反応して、ほとんど反射的に前へ駆け出す。
ドサッ。
衝撃音と共に、俺の上に倒れ込んできたのは。
「……いってぇ」
ルームメイトの冨上栄輔だった。
