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うーん。
ぜーったいなんか企んでんのよなぁ。
俺、椎木篤彦は、榛名千歳にグイグイと手を引かれながら、食堂前の廊下を歩いていた。
諸事情あって、実力者とはできるだけ仲良くしときたいんやけど……どんだけ仲良くなろうと近づいても、頑なにつれない態度を崩さない千歳くん。
そんな彼が、どういう風の吹き回しか、『ダンスについて教えてほしい』なんてしおらしく頼んできた。
普通に考えて、裏が無いわけがない。
一旦は断った。
けれど、なおも食い下がる千歳くんを見て、逆に興味が湧いた。
一体何が、彼をそこまで必死にさせるのか。
もしその目的が有害だったなら、俺が暴く。それが、今後のオーディションにとってもベストな選択やと思うし。
昔から人の感情を読み取るのは大得意やったから、千歳くんの狙いを推測することくらい容易いはず。
そんなふうに考えながら、目の前の彼へ視線を向ける。
榛名千歳。その表の顔と裏の顔が違いすぎることで悪名高い。
ルームメイトの冨上栄輔も、それに引っかかり、後日の彼の豹変ぶりに傷つけられ、枕を濡らしていた夜があった。
彼が俺のデビューに有害か無害か、見極めは不可欠。
「急にごめんなさい、篤彦くん」
ふわ、と花のような笑顔を浮かべる彼。完全に『表の顔』のモードらしい。
けれど、その瞳の奥に揺らめく、どこか緊張したような色は隠しきれていない。
利発そうではあるけれど、まだまだ中学生。
それで言うと、彼の身長は改めて見ても小さい。中学生男子にしても若干小さめ。
俺が大体180あって……多分、10cm以上は小さいよな。絶対170いってないやろ。
そして、背が小さい分、自然と上目遣いが多くなる。
それに加え、非現実的に整った、美少年というよりも美少女といったふうな容姿。
彼に性癖歪められてる奴多いって、噂にはきいとったけど……確かに頷けるわ。
しかも、男特有の汗臭さやむさ苦しさが微塵もない。むしろ、風呂上がりみたいなスッキリと甘い香りが漂っている。
って、なんやねんそれ、クッソ羨ましい……。
男性ホルモン少ないと自然とそうなるんかな。
二次審査で同じグループになった峰間京が、やたらと彼を『可愛くね?』と言ってくるのにも、頷けてしまう気がした。
『第一印象では、普通に抱けるなって思ってた。話してみたらクソガキすぎて萎えてたけど、なんか最近急に女の子っぽく見えてきてやべーわ。これどうすべき?ってか参加者相手にどーにかしていいんだっけ?』
ええわけないやろ、と0秒で突っ込んだのを覚えている。
けど、生粋の女好きで、男に興味ゼロの彼でさえ、そんなふうに評してしまうほどの中性的な容姿。
『裏の顔』のクソガキ態度があって逆に良かったかもな。
ずっとニコニコ愛想振り撒いてたら、それこそ性欲に飢えた男たちの餌食になりかねんし。特に峰間京って奴とか。
あいつ、話してる分には楽しいんやけど貞操観念ヤバすぎてずっと一緒にいるとなんか疲れんねんな。ほんまにいつ刺されてもおかしくないやろあのヤリチンクソ野郎。
もしかして、榛名千歳の『裏の顔』は、クズなルームメイトから狙われないために『作った』性格……?
いや、流石に考えすぎか。峰間も今んとこそれほど千歳くんに本気になっとらんし。
ってか、もっと怪しい奴おるよな。皆戸遥風とかいうやつ。
あいつ、嫉妬がアホほど分かりやすすぎんねん。表では王子様スマイル振り撒いてるけど、裏ではいっつも千歳くんに引っ付いて周囲の男にガン飛ばしてる激怖ヤンキー。ゲイなんかな?それともバイ?
ぐるぐると思考を巡らせていると、不意に、トンッと肩を叩かれた。
