軽い返事。

ハッとして、顔を上げる。篤彦は、ニッと楽しそうに唇の端を上げ、私を見下ろしていた。

まるで、私が何を企んでいるのか探ってやろうとでも言うような、挑発的な視線。思わず息を呑む。

……人選、間違えたかも。

思わず、そんな考えが脳裏をよぎる。けれど、今更引き返せない。

私は作り笑いを浮かべ、愛想のいい後輩を装う。

「ありがとうございます。じゃ、ちょっと来てもらっていいですか」

そう言って、篤彦の手を引く。
そのとき。

「篤彦くん、やめといた方がいいと思いますけど」

冷静な声が割り込んだ。

声の方向を辿ると、その先には天鷲翔。訝しげに眉を寄せ、私を睨んでいる。
そりゃそうだよね。

ついこの間まで死ぬほど問題児だった私が、急にこんなに愛想よく誘ったら、誰だって怪しむに決まってる。

篤彦は翔の忠告に、一瞬考えるように沈黙した後──

「まーまー、なんかおもろそうやし、行ってみるわ♡」

軽い調子でそう言うと、翔に手をひらひらと振る。

「ぼっち飯、頑張ってな〜」

軽口を叩く篤彦を無言で見つめる翔。

その視線を背中に感じながら、私は篤彦の手を引き、早歩きで食堂を出たのだった。