自分を指差し「俺?」と意外そうに首を傾げる篤彦に、言葉を続ける。

「篤彦くんって、多分参加者の中で1番ダンス上手いですよね」

食堂のざわめきの中、私は微笑みながら彼に声をかけた。

「ちょっとダンスについて相談したいことがあるんですけど、今、来てもらえます?」

椎木篤彦。
彼に、栄輔を助ける役を担わせる。

彼は冨上栄輔と親しく、彼がピンチに陥っているとなれば助ける可能性が充分ある。

栄輔と仲の良い人で天鷲翔も候補に上がったけど、彼は絶対私に警戒して着いてこなさそうだから除外された。

私が直接栄輔を助けてしまったら、栄輔に懐かれてしまう恐れがあるから、私は篤彦を事件の場に誘導だけしてすぐ姿を消すんだ。

篤彦は少し驚いたように瞬きをし、それから小さく笑った。

「せっかくのお誘いやけど、あとでも大丈夫?ほら、今、食事中やし?」

困ったように眉を下げそう言う篤彦。ダメか……でも、もうちょっと食い下がってみよう。

私は瞬時に思考を巡らせ、次の手を打つ。

小さく息をつき、失望したように視線を落とした。

「そーですか……今来てもらえたら、仲良くしてもいいかなって思ったんですけどねぇ」

日中、私はこの手で皆戸遥風に引っかかりそうになった。
『嫌われたくない』という感情に突き動かされ、彼を全肯定してしまおうかと一瞬迷ってしまった。

なら、今度は私が同じ手を使ってみよう。

篤彦は、ここ最近ずっと私と仲良くなりたがっていた。
隙あらば話しかけてくるし、『困ったら頼って』と言ってくれたことだってある。

仲良くなりたいんでしょ?困ってるから、助けてよ。

私が自分から距離を詰めようとするのなんて、貴重なんだから。

来てくれないなら、2度と関わらない。

そう仄めかすように、興味を失ったふりをして、わざと視線を逸らす。

これでも来ないなら、潔く諦めよう。
こっちだって、時間がない。

遥風が突き落とすタイミングは、栄輔が2階ラウンジでスマホを見つけ、食堂に戻ってくるとき。

2階ラウンジから降りるとき、階段を下っているところを背後から突き落とした方が、遥風の顔が見られず犯人だとバレづらい。

そんな理由をつけて、遥風にそのタイミングを推した。
なので、栄輔がスマホを見つけるまで一応時間は稼げる。

けれど、確実に栄輔を助けるために、できるだけ早く現場に行きたいのが本音。無理そうならさっさと引き下がり、他をあたる。

そんなふうに思考を巡らせていたところ──

「わかった」