その日の夜、食堂。

私は夕食を取っていた。今日は遥風がいないから、久しぶりに1人。場所は、意図的に栄輔たちの近くを取る。

翔、栄輔、篤彦が談笑しながら夕食を取っている。

「そういえば、今日おもろい写真撮ったんだよ!陽斗くんがさ……」

得意げに話しながら、ポケットの中を探る栄輔。

──そろそろだ。

栄輔の指が空を掴む。

「あれ……俺、スマホどこやったっけ?」

彼がスマホを探し始めた瞬間、私は息を潜める。

皆戸遥風の計画。
それは──

『栄輔を食堂から2階ラウンジへ誘導し、その途中の人気のない階段で突き落とし、棄権させる』

という、シンプルで最悪なもの。

冷静な遥風がここまでの手段を取るほど、彼にとって冨上栄輔は邪魔な存在らしい。
親でも殺されたのかと思うほど、異常な執着を感じる。

私は遥風の『協力者』として、栄輔のスマホを夕食前に盗み、2階ラウンジのソファの隙間に仕込んでおいた。

後は、スマホのありかを『それとなく』栄輔に知らせるだけ。

「栄輔の機種なに?」

「14プロ。なんかオバケのステッカー貼ってあるやつ……」

焦る様子の栄輔。その肩へ、椅子を寄せて近づく。

「それ、2階のラウンジで見たかも」

「へっ?!」

私が口を挟んできたことに驚き、素っ頓狂な声をあげる栄輔。翔と篤彦も、驚いたように目を見開いている。
誰も何も言わずに、気まずい沈黙。

「……何?」

微笑みを貼り付け口を開くと、栄輔がハッと我に返り、慌てたようにガタッと立ち上がる。

「あ……ありがとうございます!!」

ガバッと頭を下げると、食堂を飛び出していく。
途中で段差に躓きかけながらも、勢いのまま消えていく栄輔の背中を見送り——

私は机の下で、静かにスマホのキーボードを打った。

『行った』

その3文字を、遥風に送信。

これで、私は皆戸遥風の『協力者』としての任務を果たしたことになる。

だが、本当の目的はこれから。
スマホを伏せ、ふと顔を上げる。

「──あの」

にこりと微笑みながら、視線を向けた先は──椎木篤彦。