ニコ、と演技の笑顔を張り付けて。
優しく、遥風の髪を撫でる。
「事情も知らないのに、分かったような口聞いて止めようとしてごめん」
胸の奥が、きゅうっと痛む。
最低だ、私。
味方のふりをして、彼の計画を聞き出し、妨害しようとしているなんて。
それでも──
「遥風の味方でいたいって思ってることは、本当だから」
罪悪感を押し隠して、そっと微笑んだ。
その瞬間、遥風の瞳から、張り詰めていた敵意がふっと消える。
そして──
ギュッ。
力強く、抱きしめられた。
熱のこもった息が、耳に触れる。
少し汗ばむ体温と、制汗剤の爽やかな香り。
心臓がじわっと熱を帯びる。
「言ったな」
まるで、無くしていたおもちゃを取り戻した少年のような、そんな感情の滲んだ声色。
ズキズキと胸が痛む。
苦しいほどに、遥風が愛おしいと思ってしまっている自分がいた。
──ああ、私、完全に皆戸遥風にハマってるんだ。
だからこそ、彼が間違った道を進むのが耐えられない。
止めなきゃ。
絶対に、止めなきゃ。
協力者のふりをして、決して周囲に気づかれないように。
彼を、ちゃんと守れるように。
そう決意しながら、私は、遥風を抱きしめる腕に、そっと力を込めた。
これが、彼を傷つけないための唯一の方法だと、信じたままで。
