「この際、バレて炎上したっていいんだよ。俺の人生が終わってもいいから、今回栄輔に負けるわけにはいかねーんだよ……!」
……どうして、そこまで自暴自棄になるの。
遥風は、今のままでも、充分栄輔と戦えるのに。
どうして、自分でダメだって決めつけて、自分を自分で殺しちゃうの?
言いたいことはいっぱいあるのに、遥風の剣幕を前にすると、喉が詰まって声にならない。
硬直する私を前に、遥風はベッドから立ち上がる。
「遥風、どこ行くの?」
「帰る」
「……待ってよ」
思わず腕を掴んで引き留める。もう少し、話し合うべきだと思う。
……けれど、振り返った遥風の瞳を見た瞬間、心臓が凍りついたようになった。
今まで向けられたことのない、『失望』の視線。
息が、止まる。
興味を失ったように、視線を逸らされる。
「……離せよ」
吐き捨てるような声音。
ドクン、と心臓が跳ね、呼吸が浅く行き来する。
──嫌われ、た?
崖から突き落とされたような感覚。
遥風に嫌われるくらいなら、ここで彼を止めず、彼の選択を肯定してしまいたい。
そんな情けなくて自分勝手な思考が過ぎる。
けれど──忘れられるわけがない。
脳裏にフラッシュバックする、遥風と過ごした3週間。
『お前、ホントは女でしょ』
まだ彼について何も知らなかった、初めて話したあの日。
『助かった、ありがと』
グループをまとめるために、一緒に試行錯誤していた練習の日々。
『……お前、自分の感情に鈍感すぎ』
平気なふりをする私の気持ちを当然のように見抜いてきて。
『親のこと頭から消したら、自分でもびっくりするくらい歌って踊るのが楽しいんだ』
私にだけ、ドキッとするほど純粋な笑顔を見せるようになって。
……せっかくここまで、夢を楽しむことができるようになったのに。
いつも自分を責めてばかりだった遥風が、少しずつ、けれど確かに、自分を好きになれていたようだったのに。
──心から信頼できる友達になれたのに。
ここで『アイドル』を捨てること、皆戸遥風を捨てることを、見過ごしたくない。
彼のステージを、あの真っ直ぐな笑顔を、もっとずっと見続けていたい。
だから。
「……協力するよ」
嘘をついた。
