さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

医務室の前に辿り着き、ノックもせずにガチャッと扉を開く。
窓際に置かれたベッドでは、遥風がひとり窓の縁に肘をつき、外の景色を眺めていた。

「……はる、か」

そばに歩み寄ると、ゆっくりと振り返る遥風。

闘志すら残っていない表情。ぼんやりと焦点の合わない瞳。

最高に危険な状態だ、と直感した。

今まで必死に積み重ねてきたものが崩れ落ち、そしてライバルの圧倒的なパフォーマンスに打ちのめされ、メンタルがズタボロになっている。

「……走ってきたの」

ふ、と呆れたように、力無く笑う遥風。ベッドの傍に腰を下ろすと、頬にスッと手が伸びる。

「息切れてるよ。ただでさえ体力ねーのに……」

何もない風を装っているけれど、完全に今までの彼とは違う。その瞳からは力が抜け、どこか遠くを見つめているみたいで。

どうしようもなく痛々しくて、思わず、ポツリと言葉が溢れる。

「……遥風、諦めないで」

ちょっと目を細める遥風。私は続ける。

「今回のことは絶対に私たちは悪くない。仕方ないことだから」

必死に言葉を紡ぐけれど、何も今の遥風には響きそうにない。スカスカと空を切る私の言葉。

「……それでも、結果が全て、だろ」

力なく私の頬から手を離し、ぼそっと呟く遥風。

「こういう運だって、芸能人には必要な要素。千歳もよく分かってんだろ?」

ぼんやりと空を見つめたまま、ふっ、と自嘲気味に笑う。
私はぐっと下唇を噛んだ。
今の彼に、どんな言葉をかければいいのか、全く分からない。

「……結果が全てっていうんならさ。ちょっと外れたことしてもいいと思わね?」

感情の読めない声。
ハッとして、顔を上げる。嫌な予感。

視線が交錯する。縋るような、どこか潤んでいるような瞳にドキッと心臓が跳ねる。

「何が、言いたいの」

「……冨上栄輔を、怪我させようと思う」

その言葉を聞いた瞬間、息が止まった。
彼が、超えてはいけない一線を踏み越えようとしている。

一体何が、遥風をそこまで栄輔に執着させているのか。
私は、彼ら2人の関係について何も知らない。
けれど、止めなきゃ、と直感した。
だって、そんなことをして勝ったって、遥風の心は満たされないはず。

「栄輔に、負けたっていいじゃん……。どうしてそこまで極端な思考になるの」

私の声音が、自然と硬くなって、咎めるような口調になる。
けれど構わず、言葉を続ける。

「また、親からのプレッシャーなの?そんなのもう、気にしなくていいって。遥風の好きなようにやれば──」

「うるさい!!」

声を荒げる遥風に、思わず身がすくんだ。

今まで向けられたことのない、敵意の滲んだ声音。