さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

自動ドアが、静かに開く。

その先には、白を基調とした洗練されたエントランスホールが広がっていた。
朝日がガラス張りの壁から差し込み、磨き上げられた床が反射する。

ハイテクな受付カウンター、整然と並ぶモニター、どこまでも無駄のないデザイン──流石は、日本最高峰の芸能事務所。
権力って、目に見えるんだね。

その完璧な空間に圧倒されかけたけど、すぐに気を引き締め、受付に足を運んだ。

目線。相手の瞳をまっすぐ見て。

声音。声帯の位置意識。

姿勢。常に重心を下に。

所作のスピード、直線的に。

とびきり甘い笑顔と、繊細な少年の声で。

「すみません」

一瞬で、視線が集まる。
カウンター内のスタッフたちは、私の顔を見るなり、顔を赤らめたり、驚いたように瞬きをしたり。

「オーディションをしていると聞いたのですが」

「……あっ!はい!」

目の前の女性スタッフが、慌ててコンピューターを操作する。その指先がわずかに震えていた。
どこか申し訳なく思いながら、私は対応を待つ。

「い、一日遅れでのご到着予定だった、榛名千歳さまですか……?」

「はい、そうです」

「で、ではこちらのIDカードと、ルームキーをお持ちください!カードはあちらにかざして入場していただいて……あっ、館内、ご案内しましょうか?」

うーん、スタッフといえど、女の人とはあんまり絡まない方がいいよね。リスク管理大事。

「大丈夫ですよ。館内図か何かありますか?」

「は、はい!こちらですっ」

手渡されたパンフレットを受け取って会釈すると、踵を返した。

女の人をたぶらかしてるみたいでいい気はしない。

心の中で小さくため息を吐きながら、私は入場ゲートへと向かう。IDカードを機械にかざすと、軽やかな電子音と共に、目の前のゲートが開く。

……色々とお金かけてるなぁ、流石はエマ。

感心しつつ、手元の館内図に視線を落とす。
ルームキーを見るに私の部屋番号は313号室。
寮棟の3階か。ここは1階ロビーだから……。

脳内で館内の構造を整理しながら、ロビーを抜け、寮棟へと続く連絡通路へ足を踏み入れようとした、その瞬間。

トンッ。

肩を軽く叩かれる感覚。

突然の出来事に足を止め、私はゆっくりと振り向いた。