その日のスケジュールは、午前中にそれぞれのグループでの練習、午後にステージリハーサルという形になっていた。
地獄のような雰囲気で行われた午前練で、なんとか琥珀のパートを補って形にした。

けれど、ステージリハーサルの結果は散々だった。

前までのパートと混乱し、振りを飛ばす者まで出てくる。
私は終始、遥風の顔をちらりと横目で追っていた。

彼は、完全に追い詰められていた。

握り締めた拳。噛み締めた唇。今にも壊れてしまいそうなほど焦りに揺らぐ瞳。
そんな遥風の姿を見るたびに、胸がギュッと締めつけられる。

今朝メンバーが1人抜けたのだから、完成度が一気に落ちてしまうのは当たり前。

けれど、『過程関係なく結果を重視する』スタンスのこのオーディションでは、きっとそんなことは考慮に入れてもらえない。

そのことは、私も遥風も、よく分かっていた。

そんな私たちのパフォーマンスとは対照的に、他のグループのパフォーマンスの完成度は凄まじかった。
特に、翔と栄輔のいる『セレナーデ』チームは圧巻だった。

しかし、今は全く素直に感動できない状況。だって、栄輔がうまくやればやるほど、遥風のメンタルが崩れ落ちていくのだから。

ステージリハーサルが終わった途端、逃げるようにステージを後にした遥風を、慌てて追いかける。

けれど、どこを探しても遥風の姿はない。

バクバクと高鳴る心臓。

周囲のスタッフに「遥風見ませんでしたか?!」と聞いて回るも、目撃情報は無し。

焦燥感が喉を焼く。

まさか、まさかとは思うけど──
このまま、自分も棄権するつもりなんじゃないの!?

足が震えそうになるのを無理やり押さえつけ、さらに走る。
頼むから、話だけでもさせてほしい。

そう思っていた矢先──

「あ、遥風くん? 具合悪いって言って、医務室行くって言ってましたよ」

カメラスタッフの言葉に、思わず息を呑んだ。

「……医務室……?」

怪我をしている様子は無かったけど。仮病?
でも、医務室ってことは、少なくとも今すぐ棄権しようとしているわけでは無さそう。

頭が混乱して、ちょっと休みたいってとこだろうか。

「……ありがとうございます!」

お礼を言うなり、私は踵を返して医務室の方向へ駆け出した。
私が、彼に何をできるのかは分からない。

けど、彼が吹っ切れた時の姿を、彼の輝きを見てしまったから、黙って見捨てるなんてことはできなかった。