誰もが、すぐにはその言葉の意味を飲み込めていないようだった。

すがわらこはくが、きけん。

その文字列が呪文のように脳内を漂う。

数秒経って、ようやくその意味が脳に浸透する。

『この大事な時期に問題起こしてメンバー棄権とか、マジでシャレになんねーから』

さっき遥風が発した言葉が、鮮明に蘇る。

フラグ回収早いな……とか、そんな呑気なことを考えてる場合ではなかった。
本番前日に、最もあってはならないことが、起こってしまった。

「……棄権?」

沈黙を破ったのは、遥風だった。
その声音は怒気をはらみ、焦燥感で震えている。

せっかく親のプレッシャーから解放され、安定していた彼のメンタルにヒビが入る音が聞こえた。

私はすぐさまスマホを取り出し、彼の名前を調べる。
すると、トップに表示されたのは昨日発表の週刊誌のネット記事。

『元カノのリークにより、インフルエンサー こはく(16)の四股が発覚』

……なんて、くだらない。

ノリで生きてそうなパリピ、すぐに炎上しそうとは思ったけれど、まさかこんなにも早くやらかすとは思っていなかった。

3人の取り巻きたちは知っていたようで、お互い顔を見合わせて気まずそうにしている。

ああ、今日はやけにこの3人が静かだと思ったら、そういうことだったのね。
横から私のスマホを覗き込み、ギョッとしたように目を見開くメンバーたち。

「あいつ……やりやがった」

「何やってんだよ、馬鹿野郎……」

私も、思わずその場で頭を抱えてしまう。
明日が発表本番だというのに、パート割りも、フォーメーションも、全て振り出しに戻った。

1人でもメンバーがいなくなると、修正後の自分のパートはもはや別物になる。
もちろん、今まで積み上げた完成度は……大幅に落ちることになる。

私はすぐに、皆戸遥風を振り返る。
真っ青な表情で、口元を押さえている、必死に堪えてはいるが、指先が微かに震えていたのを見逃さなかった。

今まで圧倒的な実力とリーダーシップを持ち、メンバーを取りまとめてきた頼もしい姿はそこにはなく、ライバルへの敗北に追い詰められた、今にも壊れてしまいそうな表情の少年がいた。

遥風の繊細さをよく知っているからこそ、ああ、このままでは駄目だ、とすぐに分かった。

きっと今の彼は、一歩間違えれば自爆する危険な状態。
しっかり彼のことを見ておかないと……きっと、このままじゃ、このグループは崩壊する。

そんな不吉な直感が、脳裏をよぎった。