さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


「あれや、スタジオ棟2階の小道具倉庫。舞台の小道具とか保管されてんけど、しょーもないもんめっちゃあっておもろいで」

「なんでそんなとこ行ったんですか?」

「いや、昨日さすがにラーメン食べ行こ〜思ってな。関係者に変装しよ!ってことで、衣装倉庫にスタッフユニフォーム盗みに行ってん。けどそのつもりが、間違えて隣の小道具倉庫入ってもーて」

「で、これを持って帰ってきたと……?」

「イエース」

食欲のためにそこまで突飛な行動に出られる勇気、逆に尊敬するかも……。

「イエースじゃねえ」

「いでっ」

飛龍からハリセンを奪い取り、思いっきり頭を叩く遥風。その引き攣った表情には、抑えきれない苛立ちが滲んでいる。

「お前は本番前に何バカなことしようとしてんだ?無断外出で処分になったらどう責任取るつもりなんだよ」

「ならんやろ。俺の存在自体が撮れ高やし」

「頭わいてんのお前」

「ゲフッ」

再度バシッと頭を叩かれ、その場にうずくまる飛龍。

「この大事な時期に問題起こしてメンバー棄権とか、マジでシャレになんねーから。弁えて行動しろ」

遥風の声は、ただの注意にしては切実さが滲んでいた。

遥風は、冨上栄輔と謎の確執を持っていて、そのコンプレックスを拗らせに拗らせている。
今は自分のグループのパフォーマンスが安定しているから余裕があるが、もしも何かのアクシデントが起こり本番で栄輔グループに完成度で大きく差をつけられたら、恐らく立ち直れなくなるほど。

そんな最悪な状況が起こらないように、私も問題を起こしそうなメンバーを気にしておかないと。

そう、密かに気を引き締めなおした、次の瞬間だった。

バンッ!!

突然、スタジオの扉が勢いよく開いた。

「大変です!」

息を切らしながら入ってきたのは、1人のスタッフ。表情が青ざめている。

「菅原琥珀くんが……棄権になりました」

室内の空気が、硬直した。