さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜

スタジオに入ると、本番前日ということもあり、多くのメンバーがいつもより早くスタジオに来て自主練に取り組んでいた。

歌って踊ってみんな暑いのか、冷房がよく効いていた室内に、思わず肩を縮こませる。

なんか寒いな……。カーディガン持ってくるべきだったかも。
そんな私の様子にいち早く気づいたのは、灰掛遼次だった。

「千歳、寒いなら羽織っとけ」

そう言って、ひょいと自分のジャケットを手渡してくれる。

驚いて見ると、ちょっと照れくさそうな表情。不良っぽい外見なのに、こういう不器用な気遣いできるのなんかいいな。

少女漫画の王道ヒーローみたいな性格。

一方、顔だけ少女漫画のヒーローっぽい皆戸遥風は案の定不機嫌そうな表情。

前に私たちが衣類の貸し借りをしてた時も、めちゃくちゃ嫌そうだったし……寒いけど、羽織るのをちょっと躊躇う。

すると、遥風とは違う方向からも何故か恨めしげな視線が飛んできた。
視線の主は、小山明頼。ああ、そういえばこの人も厄介なんだった。

「遼次お前……千歳に貸したジャケットを後でいかがわしいことに使おうって魂胆だろ」

「ちげぇし。お前発想キモすぎんだろ」

明頼の発言に本気でドン引きする遼次。2人は同い年、どちらも15歳のはずだけど、精神年齢の差をすごく感じる……。

「あ?じゃあなんでジャケット貸すんだよ。暖房上げればいいじゃねえか!」

「俺らは暑いだろーが」

「我慢しようぜ!」

「なんでだよ!」

ヒートアップしていく2人。

コレ、私が止めるべき……?内心でため息を吐きながら、仲裁のために立ちあがろうとした次の瞬間。

「中学生やかましいわ!喧嘩してんとはよ動かんかい!」

バコーン!!

衝撃音と共に、喧嘩が仲裁される。頭を抑えてうずくまる遼次と明頼。
その背後に立つのは、ハリセンを持った飛龍だった。

……ハリセン?

怪訝そうな顔で見つめる私に、飛龍がニカッと笑って言う。

「ええやろ。コレ持ってたら怖い先輩ってカンジで箔がつくんちゃうん思ってな」

「え、いやいや……どこから持ってきたんですか?」

呆れる私に、飛龍はなんでもないように答える。