今のところ周囲に人はいないとはいえ、いつ誰が通りがかってもおかしくない場所。
リスク管理は割とできるはずの京がこんな行動に走ったのは、今までで初めてだった。
「さすがにやばいからっ、一旦離してっ……!!」
慌てて押し除けようとしても、びくともしなくて。
それどころか、スッと耳元に唇を寄せ──
「じゃあ一個、俺の言うこと聞ける?」
甘く、掠れた声を落としてきた。
……わざと断れない状況で……ずるすぎる。
「分かった!聞く!聞くからっ……!!」
ほとんど反射的に答えた瞬間、京は満足したように喉奥で笑って、あっさり腕の力を緩めた。
反射的に一歩後ずさる。
目の前にはいつも通り、ポケットに手を突っ込み余裕綽々で見下ろしてくる京。
私はいまだに暴れている心臓を押さえつつ、咎めるように京を睨んだ。
「で、何……?」
「べつに大したことじゃないよ。ただ──」
そこで京は前屈みになり、ふっと私の顔を覗き込むと。
「──俺といちゃいちゃしよ、千歳」
脈絡のなさすぎる要求を、ぶっ込んできた。
……それのどこが『大したことじゃない』んですかね?!?!
