舌打ちと悪態を残して、逃げるように路地の奥に消えていく男たち。
靴音が遠ざかっていき、張り詰めていた空気が、少しずつ解け始める。
私は未だにバクバクと暴れている心臓を押さえ、ちらりと霞を見上げた。
「……ありがとうございます」
「別に」
さらりと温度の無い返事。
てっきり、調子に乗ってナルシストモードに入るのではと思っていたから、少し意外に思う。
けれど同時に、さっきの手慣れた喧嘩と照らし合わせ、どこか納得してしまう自分もいた。
──こういう強さってたぶん、彼にとっては『必要最低限』なんだと思う。
自分を守れるだけの力を身につけておかないと、一瞬で淘汰される立場。
だからこそ、こういう衝突も彼にとっては日常茶飯事で。
いちいちカッコつけるようなものでもないんだろうな、なんて思ってしまう。
……とはいえ、制服のポケットにチャカを携帯していたことには流石に冷や汗をかくけれど。
だって私が今まで煽ったときも、抱きしめたときも、キスしたときも、ずっと彼の胸元には飛び道具が潜んでたってことでしょ?
もし間違えてこの人の地雷を踏み抜いてたらいつ鉛玉がめり込んでもおかしくなかったってことじゃん。
今更そんなことに気づいて戦慄する私。
その隣で、霞は鬱陶しそうに乱れた前髪をかき上げていたけれど──
ふと視線を落として、動きを止めた。
……?なに?
怪訝に思ってその先を辿ると、彼が見ていたのは──さっき私が落としたスマホの画面で。
そこでは遥風とのトークルームが、思いっきり開きっぱなしになっていた。
