ぐいっ。

遥風が、乱暴に私たちを引き剥がす。

「……なんですか?」

「距離近すぎだろ。撮られたらどうする」

「問題ないでしょ。男同士なんですから」

再び散る火花、今にも勃発しそうな修羅場。

この2人は、毎日のレッスン中でも頻繁にこんな感じになる。
そのたびに練習が止まるの面倒だから、仲良くなってほしいんだけど。

私は慌てて空気を変えようと、話題を絞り出して口を開く。

「遥風はさ。髪染める予定とかあるの?」

とりあえず、さっきの話題を蒸し返すことにした。
話題を振られた遥風は、苛立ちを吐き出すように大きくため息をつくと、くしゃっと髪をかき上げた。

「さあ……派手髪にしてみたい気持ちもあるんだけど、黒髪の方が周りからのウケいいんだよな」

そう話す遥風の瞳は、どこか憂いを帯びていた。

その様子に、『周りからのウケ』とは『親からの評価』のことなんだろうな、となんとなく察する。

「……明るい髪も似合いそうだよ。ね、遼次」

「あー……」

遥風のことをよく思っていない遼次は、あまり彼を褒めたくはない様子。

空気読んでよ。

私は咎めるように、遥風の死角で遼次の背中を小突く。

「っ……似合うと思います」

「ま、お前よりはね」

バチッ。

再び散る火花。
2人とも、普段は冷静なのに、お互いを前にした途端子どもみたいに敵意剥き出しになるのやめてくれないかなぁ。

「染めるとしたら、何色にするの?」

慌てて2人の間に入り、再び遥風に話題を振る。

「……逆に何色がいい?」

「どうせ染めるなら、結構派手でもいいんじゃない?赤とか」

「ぜってー攻めすぎ」

「いいんじゃないすか?不良っぽくて」

「灰掛なめてんの?」

そんな他愛の無い話でなんとか場を繋ぎつつ、朝練へと向かう。

発表本番まで、あと1週間。
遥風の覚醒もあって、どこまでパフォーマンスのレベルが上がるのか。そして、果たしてこのまま大きな揉め事無く無事過ごせるのか。

期待と不安の入り混じった心境で、私は今日も、スタジオへと足を踏み入れるのだった。