ルームメイト……峰間京のこと?
男装はバレてないはず。『色気付いてる』とか言われて、何か違和感は察知されていそうだったけど。
「バレてないけど、なんで」
私が聞き返すと、遥風は本気で不機嫌そうな声音で言い放つ。
「普通にあいつ、距離近すぎ。多分下心ある」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
京に限ってそれはない。だって、女の子にしか興味ない!男は論外!って生き様を貫いてるチャラ男だよ?
いくら私が女の子っぽくても、男(男装だけど)って時点で恋愛対象外なはず。完全に遥風の心配しすぎ。
「あと、普通に変態そう。性癖とかエグそう」
「いや、まあ、それはちょっと分かるけど……」
お前が言うなよ、と心の中で毒づく。昨日の夜キスしてきたくせに。
男子高校生って、みんなあんなもんなの?
「あと、椎木篤彦もなんか腹黒そうだからぜってー関わんない方がいい。小山明頼……はネタ枠だから相手にならないとして、一番問題なのは灰掛の奴だよ。あいつ、割と本気で千歳のこと大好きだろ」
遥風が人の名前を呼ぶ時は、好感度によって呼び方が3つに分かれる。
それなりに親しかったり、好感度の高い人間には、名前呼び。
そして、なんだか気に食わなかったり、距離のある人間には、苗字呼び。
最後に、相性最低のバチバチした関係性の相手には、『あいつ』とか『お前』呼び。
今まで遼次は真面目な性格を買われて『名前呼び』ゾーンにいたにも関わらず、いつの間にか『苗字呼び』ゾーンに降格していたらしい。
ちなみに、最低好感度の『あいつ・お前呼び』ゾーンにいるのは冨上栄輔、菅原琥珀、そして今日新たに峰間京が追加された。
そこまで直接的な絡みがないにも関わらず初っ端から最低好感度ゾーンに振り分けられる京が少し不憫ではあるけれど、それだけ生理的に無理だったってことなんだろう。
「誰が自分のパート分けの時に救ってくれたと思ってんだ?先輩からのご恩を忘れやがって」
ブツクサと文句を言う遥風に、私は思わず口を挟む。
「いや、それとこれとは関係ない気が……」
「……へえ。灰掛の肩を持つ、と」
「別に、そういうわけじゃないけど!」
そんなふうに、言い争っていると。
「俺の話してます?」
背後から響いた聞きなれた声に、ハッとして振り向く。
そこには灰掛遼次が立っていた。
シルバーアッシュに染め、アンニュイに目までかかった前髪の奥、長いまつ毛に縁取られた瞳に気まずげな光が瞬く。
やば、全然気づかなかった……。
