『人気アイドルグループSYNTH♡DROPメンバー、いじめで脱退か』
『元Purple Snowのシュン、脱退の原因はメンバー内のいじめだと明かす』

煌びやかなスポットライトの下、夢を語り、友情を誓い、手を取り合うアイドルたち。
しかし、その笑顔の裏側では──誰もが自らの立場を守るために、爪を研ぎ、牙を剥いている。

美しい舞台の裏側で、蹴落とし合いが日常の汚れた世界、それが芸能界。

……って、お母さんの受け売りだけど。

で、私がこれから利用するのは、まさにその芸能界の汚い部分。
『蹴落とされる側になろう』っていう魂胆だ。

とりあえず、妹のために、このオーディションには合格せざるを得ない。
合格のため、スタッフと視聴者には徹底的に愛想を振りまき、アイドルスキルも惜しみなく出す。

だからといって、やすやすと優羽の思い通りになる気はない。
カメラの前では完璧な『優等生』を演じる一方で、カメラがオフになった瞬間──徹底的に、他の参加者に嫌われにいく。
特に、デビュー後に一緒に活動するであろう人気メンバーをターゲットに。

オーディション中にメンバーと信頼関係を築いてしまったら、それを後から壊すのは難しくなるから、今のうちから工作しておくんだ。

そしてデビュー後、他のメンバーからのヘイトを一身に受け、グループ内で孤立。

そうなれば、あとは簡単。
『いじめによる精神的苦痛』を理由に、『仕方なく脱退』──という筋書きを作る。
それなら優羽も、強く文句は言えないはず。

その後は精神疾患を装って芸能界から静かに離れ、頃合いを見て、妹と他の親戚の家にでも逃げよう。

それが、私の芸能界からの脱出作戦。

もちろんリスクも大きい。例えば、この二面性が視聴者にバレれば炎上でゲームオーバー。

視聴者にバレなくても優羽にバレたら即終了。
あの人は察しが良さそうで怖い。
だからこそ、バレないように、完璧にやり遂げないといけない。

──大丈夫、私はできる。

胸の奥に張り詰めた空気を、ゆっくりと吐き出す。
そして、目の前にそびえ立つ巨大な建物へと、一歩足を踏み入れた。