「えーっぐ……」
私の背後で、信じられないものを見るかのようにボソリと呟く京。篤彦も、口元を押さえて遥風のパフォーマンスを凝視している。
『SYNDICATE』の最後の一音まで完璧に踊りこなすと、遥風は一気にスイッチをオフに切り替える。
目にかかった長い前髪をかき上げ、気怠げに振り返る遥風。
まず私の存在を見とめ、その後、京と篤彦へ視線を滑らせる。
そして最後にカメラマンの姿を確認すると、即座に表情を『営業用』に切り替えた。
「何してるんですか?」
彼にしては珍しく、敬語で問いかける。参加者最年長・20歳の篤彦にきちんと配慮しているらしい。
けれど、彼の物腰柔らかな微笑の裏に滲むのは、警戒心と不機嫌さ。
さりげなく私に視線を向け、『どゆこと?』と問いかけるように首を傾げてくる。
「ブースから声が漏れてたもんで、とんでもない声量やなあ思って、つい」
ニコ、と微笑んで答える篤彦に、笑顔で答える遥風。
「あ、そうですか。やかましかったですかね」
「いやいや!うんますぎてビビったわぁ。いつの間にそこまで上達したん?」
「恐縮ですー」
ニコニコと表向きの笑顔をぶつけ合いながら、裏ではバチバチと腹の探り合いをしているのが分かる。
(どうしてそこまで脅威の上達を?)
(どうしてお前が千歳と一緒にいるわけ?)
そんな2人の心の声が聞こえてくるようだった。
2人とも計算高いだけあって本当の感情は出さないが、お互いの一瞬の表情の綻びも見逃さないという意思を感じる。
誰1人不機嫌さを出していないにも関わらず、張り詰める空気。
気まずくて視線を彷徨わせていると、ふと峰間京と目が合った。ちょっと顔を見合わせ、どちらからともなく肩をすくめる。
そして、こそっと耳打ちしてくる京。
「不仲?」
「さあ。京の方こそ椎木篤彦からなんか聞いてないの?」
「男同士の人間関係とか興味ねーもん。俺は女の子第一なのっ」
「はぁ……」
久々に話したけれど、相変わらずの京の態度に素でため息が漏れる。その発言、カメラに拾われたらどうすんのよ……。
こそこそと小声で話す私たちを見て、少し目を細める遥風。
そして、すぐさま遥風に腕を引っ張られ、京から引き剥がされる。
