そして──呼吸が止まる。
スタジオの中で自主練をしていたのは、やはり皆戸遥風。

けれど、昨日までの彼とは、どう考えても別人。

ビリビリと、全神経を直接震わせるようなとんでもない声量に、ビクッと身がすくむ。

俺の声を聞け。

そう言わんばかりの、鮮烈な圧倒的ボーカル。今までの彼から感じられなかった、『自己主張』がビシバシと伝わってくる。

自信に満ち溢れ、自分に敵う奴なんかどこにもいないと信じきった、ぞくりとするほど魅力的な瞳。

艶やかな濡羽色の髪は乱れ、どうしようもない色気を醸し出し、彼の大胆不敵な表現をこれ以上ないほど際立たせる。

そして、細かい音を限界まで拾った複雑な振り付けをまったくの体幹のブレを見せずに踊りこなす姿を見て、脳がバグる。

──遥風って、こんな踊れたっけ?
そもそも、この振りってこんなにカッコいい振り付けだった?
今までの遥風も同じ振り付けを踊っていたはずなのに、どうしてこんなに違うの?

……いや、元々遥風にスキルはあった。それも、長年研鑽されてきた、かなり高いものが。

彼に足りなかったのは、『余裕』と『こなれ感』。
いつもどこか必死感が見え隠れしてしまっていたから、どれだけ練度の高いステップを披露しても、『難しいのを頑張ってるな』止まりだった。

けれど──そのプレッシャーが薄まり、自分への自信を取り戻した彼の魅力は、まさに異次元だった。
その圧倒的なスキルについて掘り下げればキリがないけれど、とにかくカッコ良すぎて、心臓のドキドキがおさまらない。
今までの彼のパフォーマンスをずっと見てきたからこそ、今の彼とのギャップが凄すぎて、脳が一気に混乱している。

こんな……こんなことってある?

スキルもビジュアルも歴代エマプロトップクラスの彼が、自分の魅力の扱い方を完璧に覚えてしまったら──それはもう、化け物揃いの参加者たちの中でも、トップを争えてしまうほどなんじゃないか。

初めて天鷲翔のパフォーマンスを目の当たりにした時の、『絶対に敵わない』感を追体験するかのようで。

そして、彼が今まで積み重ねてきたことが、ここにきてようやく開花したんだ、と実感してしまって、胸がぎゅうっと締め付けられるように痛くなった。