「杞憂かもしれんけどな。……けど、実際千歳くん可愛いもんなぁ、京?」

話を振られた京は、「あー」と視線をさまよわせる。

その瞳は、なんだかヴェールがかかっているみたいで、感情がよく読み取れない。

「なんか、最近雰囲気変わったよな。色気づいてるっつーか……なんか変えた?」

首を軽く傾げ、顔を覗き込んでくる京。

篤彦がその計算高さで私への違和感に気づいてるのに対して、彼は純粋な本能で何か違和感を察知していそうで怖い。

「いや、特に何も変えてないけど……」

なんでもない風を装って誤魔化すけど、篤彦と京は顔を見合わせ、少しの間の後。

「女やな」
「女かぁ」
「違いますけど!?」

本気で否定しても、2人は頷き合うだけでまともに聞いてくれない。

「どこで会ったの?可愛い系?スタッフ?俺にも紹介してよ〜」
「だから、違うって!」

またも硬直するカメラマンさんに向かって、篤彦は「カットで」と苦笑する。

わざわざカメラ呼び付けておいて、放送NGトークしかしないのはどうなの……?

内心めちゃくちゃ呆れつつ、私は京と篤彦に続いてスタジオ棟に入った。

スタジオ棟に足を踏み入れると、まず広がっているのは参加者1人1人に割り当てられた個人用スタジオの並ぶフロア。

まだ朝早いこともあって、この時間帯はあまり使用している人はいないだろう、と思っていたのだけれど。
フロアの一角のスタジオブースから、くぐもったような歌声が聞こえてきた。

……え?

私は違和感に気づく。個人用ブースは、きちんと防音になっているはず。

にも関わらず、廊下まで歌声が聞こえてくるってことは……つまり、かなり人間離れした声量ってこと。

「声量やっば。翔くんか?」

そうポツリとこぼしたのは篤彦だった。

確かに、あの天鷲翔ならこのとんでもない歌声でも頷ける。

──けど、違う。天鷲翔の艶やかな低音ボイスより、少し高めのミドルボイス、耳にスッと馴染む甘い歌声。

私が、聞き間違えるはずがない。
反射的にそのスタジオに駆け出す。

「おい、千歳!」

京の制止の言葉も聞かず、ガチャッと扉を開けた。