翌朝。
昨日の夜なかなか寝付けなかったせいで、起きる時間がいつもより遅くなってしまった。

脳裏にこびりついた昨日の遥風からの告白、不意打ちのキス。

思い出すだけで、頭が痛くなる。
今日、一体どんな顔で遥風と会えばいいんだろう。

深夜テンションって、本当に怖い。
オーディション合宿中に他の参加者といちゃついたとか、万が一榛名優羽にバレたら、どんな顔されることか……。

鬱々とした気持ちのまま、私は身支度を済ませ、レッスンに必要なものをまとめて自室を出る。

すると、部屋の前で京と誰かが立ち話しているところだった。

壁に身体をもたせかけ、まるで私を待っているかのような体勢。

スラリとしたスタイル、おっとりとした関西弁……椎木篤彦?

なんで、と思ったけれど、すぐ思い当たる。

京と篤彦は確か同じTeam3、『Midnight Candy』のグループだった。それ繋がりで親しくなったんだろう。

そんなふうに考えていると、私の気配に気づいたのか、2人が顔を上げた。

「お♪プリンセスのお目覚めですね〜」

篤彦が、ゆったりとした口調で揶揄うようにそんなことを言う。

ふわっとうざったく目にかかる前髪、光の当たり具合で深い緑色にも見える瞳。両耳に、軟骨までバチバチに開いたピアス。色気を醸し出す左目下の涙ぼくろ。
おっとりと優しげな垂れ目だけど、眉毛は利発そうにキリッとしてる。

人の良い笑顔を浮かべて手を振ってくる篤彦。カメラの無い場所なので、私は思いきり無視して行こうとした。

と、その時。

ぐいっ、と峰間京に腕を引かれた。

「練習行くんなら、一緒行かない?」

ニッ、と悪戯っぽく微笑みかけてくる京。

最近、遥風とばかり話していたから美形には慣れてると思ってたけど、それでもやっぱり呆れるくらい顔が良い。
涼やかな印象を与える、アメジストのような紫紺の瞳。
有名スポーツブランドの黒ジャージに、首にかけたヘッドフォンが様になる。

猫みたいにツンと上品なオーラもあるのに、ニコニコと細まった目元が、どこか軽薄そうなイメージを全面に押し出していた。

……それにしても、今までは私のことを意に介さずって感じだったくせに、急になんで?
もしかして、遥風との関係についてなんとなく勘付かれてるとか?

何にせよ、面倒臭い2人に絡まれてしまった。
彼らとはできるだけ仲良くしたくない。