私は耐えきれずに立ち上がった。

「か、帰る!」

「あ、おい、送って──」

「いいから!」

逃げるようにして部屋を飛び出す。ドアを閉めた瞬間、背中にずるずると崩れ落ちた。


──何、あれ。


鼓動の音が、耳の奥でドクドクと響く。

頭の奥が熱くて、頬も手の先もじんじん痺れている。

……急だったから、動揺しただけ。

それだけのはず。

無理やり立ち上がり、ふらつく足取りで寮の自室へと戻る。

ドアをそっと開けて、静まり返った部屋に足を踏み入れた。

ルームメイトを起こさないよう細心の注意を払って着替えを済ませ、ベッドに身を沈める。

柔らかな毛布にくるまりながら、ようやく深く息を吐いた。

「……明日、気まず……」

ぽつりとこぼれた声が、夜の静けさに溶けていく。
混乱が胸の奥でぐるぐると渦を巻いたまま、眠気は一向にやってこなかった。