さっさと嫌いになってくれ〜アイドルオーディションで嫌われたい男装美少女、なぜか姫ポジ獲得?!〜


遥風の手が、私の頬に優しく触れる。

「本気で彼女にしたいって思ってる」

ふわ、と目尻を下げ柔らかく笑う遥風。
……今まで見たことないくらい、優しい表情。

「お前見てると、親の期待とか、マジで馬鹿らしくなってくるな」

表情こそ柔らかいけれど、その瞳には、今までのような不安定さはない。

むしろ、どこか吹っ切れたような、鋭い光が宿っていた。

「俺をちゃんと『分かってくれる』人のために、ステージに立てばいい。だろ?」

強がりなんかじゃない。

痛みも苦しさも知ってるからこそ、そう言える人になっていた。

──すごい。

今この瞬間の遥風は、まるで光をまとっているみたいだった。

強くて、真っ直ぐで、誰のことも責めずに前に進もうとしてる。

……私にはなれなかった姿。

「千歳」

頬にふれた指先が、そっと私の髪を払う。

「嫌だったら、押し返して」

「……え?」


その言葉の意味を認識する前に。


不意に、遥風の顔が近づき──唇に柔らかい感触。

「……っ?!」

言葉も、呼吸も、思考も、すべてが止まった。

心臓の音だけが、どくん、どくんと痛いほど響いている。

「な……っ」

息をするだけで、遥風の匂いが濃く鼻をかすめる。

いつもの彼の香りに混じる、微かなシャンプーの香り。

嫌でもその存在を意識してしまい、呼吸すら上手くできなくなる。

だめだ、これ以上一緒の空間にいたら、本当に心臓が破裂する……。