九条霞の病み期という前代未聞の怪奇現象を前に、周囲のクラスメイトたちもさすがに知らん顔はできないらしく、教室のあちこちからチラチラと視線が突き刺さってくる。
そんな中で、ただ一人だけ微塵も興味を示していないのは、霞の隣に陣取った編入生・峰間京だった。
椅子に浅く腰掛け、有線イヤホンをぶっ刺したままスマホに視線を落として、一ミリも隣の友人を気にする様子はない。
普段は霞の相棒みたいな顔してベタベタくっついてるくせに、こういう時にはフルシカトなのかよ……という全クラスメイトのツッコミが聞こえてくるようだ。
そんなこんなで、死ぬほど気まずい空気が漂っていた二年生の教室だったが──
「あれ、アッキーじゃーん。何してんのー??」
突如、開いたドアの先から響いてきた明るい女子生徒の声。
それにぴく、と微かに反応するように、九条霞が顔を上げた。
乱れた前髪の下、その気怠げな視線が、声の主を捉える。
ドアの縁に手をかけ教室を覗き込んでくるのは、カーディガンを短いスカートに巻き、珍しく髪をコテ巻きで下ろしている長谷川夏葉。
視線がひとつ右へ。
色素の薄い髪をハーフアップにまとめ、アイボリーのニットセーターをゆるっと着こなす天羽茉白。
さらにもう一つ右へ。
窓から差し込む光に透け、さらりと揺れる前髪。長いまつ毛。
ブレザーのポケットに片手を突っ込み、こちらを見ようともせずスマホに視線を落とすその横顔は──
榛名千歳。
霞の視線は、そこでぴたりと止まり、二度と動かなくなった。
