──ガチャン。
扉を閉める。
早歩きで、無駄に豪勢な廊下を進む。
誰もいない角を曲がり、背後の様子を窺う。
霞が追いかけてくる様子は──無い。
その瞬間、私の中でフル稼働されていた演技スイッチがプツンと切れた。
「…………はぁぁぁぁ……」
背中をずるずると壁に預けて、深いため息と共にその場にしゃがみ込む。
──結論。
精神疲労で、血反吐が出そうだ。
手の指の先が、まだ微かに震えてる。本当はこんなに緊張してたこと、霞にバレてないよね……?
なんとかキスまで持ち込んで、作戦で決めたことは概ねできたけど──代償としての精神消耗が酷すぎる。
この調子で続けたら、霞が落ちる前に私が倒れるんじゃないの?
うちのお母さんも黒羽仙李を翻弄してたって聞いたけど、もしかしてこういうことばっかやってたのかな。さすがは大女優。
小悪魔の演技をしながら、作戦通りにことを進めて、イレギュラーな場面では即座に判断して対応して──
本当のハニートラップが、こんなに疲れるものだとは。
