「ほんと、いつになったら認めてくれるんだって……ずっと思ってるよ」
……その答えは、知ってる。『永遠に認められない』。
一瞬、認められたとしても、少しでもミスをすれば、また振り出しに戻る。
どれだけ努力しても、『完璧』でなければ無価値だと突き放される。
私は、その理不尽さに気づいて、諦めた。
でも──遥風は、同じ地獄を歩みながらも、決して足を止めなかった。
何度も傷つき、壊れそうになりながら、それでも立ち続けた。
一度は表舞台に立ち、自分の存在を証明した。
その道のりがどれほど過酷だったか、私には到底分からない。
「ま、認められないのも当然か。俺なりに期待に応えようと頑張ってるんだけど……今日だって乙瀬さんに名指しで指摘されたし。もう潮時なのかもな」
遥風の目から、感情は読み取れなかった。
涙なんて溢れる気配はない。とっくの昔に泣き疲れたんだろう。
その姿が、痛いほどに繊細で、今にも壊れてしまいそうで──。
「周囲が認めてくれなくても……その分私が認めてるから」
私がぽつりとこぼした言葉に、驚いたように目を見張る遥風。
必死だった。
彼の才能を、努力を、彼自身の手で潰してほしくない。
親のプレッシャーに押しつぶされて、自分の道を見失ってほしくない。
「親とか、周りからの期待なんか気にしなくていい、遥風が頑張ってるってちゃんと知ってる人いるよ。毎朝誰よりも早く来て朝練してるのも、メンバーのことちゃんと見てケアしてるのも知ってる。遥風を心から尊敬してる人間が、ここにいるから」
──あの時の私が、誰かに言ってほしかった言葉。
『頑張ってるね』
たったそれだけで良かった。
けど、誰も言ってくれなかった。
どれだけ努力しても、結果が出なければ無意味だと言われ続けて。
それがあまりに辛くて、私は歌もダンスも嫌いになった。
芸能界なんて、二度と目指したくないと思うようになった。
だからこそ、遥風には、私と同じ道を歩んで欲しくない。
好きだったものを、自分の手で嫌いになってしまう虚しさを知って欲しくない。
だから、遥風には、歌やダンスを好きなままでいてほしい。その努力が報われるまで、挫折させたくない。
遥風がもう1度ステージ上で輝くところを、見てみたい。
