ふたつのさくら

不意に、胸がざわつく感覚を覚えた。

あ、これまずいやつだ。

「あ、そうだった!」

だんだんと苦しくなるのを無視しながら、できるだけ自然に声をあげる。

「朔羅、どうしたの?」

咲良さんが声をかけてくる。

璃奈さんも不思議そうな顔をして、こっちを見ていた。

僕はその目を見るふりをしながら、遠くを見て答えた。

「今日、先生に呼び出されてたのをすっかり忘れてました。僕、先行きますね。」

笑顔でそれだけ言って、僕は返事も聞かずに走り出した。

先生に話があるのは本当だが、呼び出されているのは嘘だ。

どっちかというと、僕が先生を呼び出す側になるのかな?

まあそんなのはどうでもよくて。

学校前の坂を一気に駆け上り、頂上に到着する。

すぐ横に校舎があるが、僕は足を止めずに運動場へと向かった。

そして人目につかない体育器具庫の裏に隠れ、座り込む。

「はぁ……あ、くっ……」

胸を押さえて、ただ、耐える。

荒い呼吸を整える。

ゆっくり、ゆっくりと深呼吸をして、心を落ち着ける。

大丈夫、絶対に大丈夫だと、言い聞かせる……。

無限にも感じられたその苦しみは、徐々に落ち着いていった。

……今日はダメかもしれない。

持ってきていた薬を1錠飲む。

残り3錠。

お願いだから効いてくれ。

「……行くか。」

何事もなかったかのように、その場を離れ、校舎へと向かった。

何人かが、変なところから出てきた僕に気づいてヒソヒソ話していたが、そんなのは無視だ。

気にしていたら僕が持たない。

ただでさえ壊れそうなのに。