ふたつのさくら

ちゃんと消えたのを確認して、大人に刀を向ける。

やはり睨みつけるばかりで、なにも言わなかった。

「……そんなに怖い顔しないでくださいよ。これが僕の仕事なんで、仕方ないと思ってください。」

刀を振り下ろそうとしたところで、そいつは口を開いた。

「……お前も、同族だろうが。」

腕を止めた。

話す気があるなら話させてあげようと思ったから。

「そうですね。」

構えをときながら答える。

「でも僕は、純粋な妖怪でも、純粋な人でもないので。人でいられるうちは、人ですよ。」

「……へぇ。」

男はそう言って、綺麗な前宙を披露する。

地面に着いた男はたぬきになっていて、そのまま森の方へ逃げようとした。

僕に絶対敵わないと分かっているからこその逃避だ。

でもね。

僕、そんなに甘くないから。

「……大人しくしてたら苦しむ必要もなかったのにね。」

たぬきは一歩も足を踏み出すことができなかった。

4本あったはずの足は、いつの間にか2本になっていた。

僕が切ったからだ。

右半分の支えを失ったたぬきは、そのまま右側に倒れる。

僕はたぬきの顔が見える位置に移動し、屈んだ。

たぬきの目はもう半分ほど閉じていて、あと少しで消えることがわかった。

小さな動物だから、この程度で終わりだ。

「……じゃあね。」

僕はたぬきの心臓の位置に刀を突き刺して、トドメを刺した。

子供のたぬきと同じように、そいつも光の粒となって消えた。

刀についた血を振り払って鞘に納める。

飛び散った血液は、すぐに地面に溶けて消えてしまった。

人に戻って周囲を見回す。

近くには人の気配も、妖怪の気配もなかった。

時間を確認して、今度は森の方に向かう。

道とも言えないような獣道を通って、広い空間に出た。

「ぅ……」

ここに来るとリアルに思い出す。

あの日、あの夜の光景を。

その匂いまでも、鮮明に。

吐きそうになるのを堪えて、その場をあとにした。

川、森、神社、竹林など、様々な場所を見て回って、午前3時を過ぎた頃、家に帰ってきた。

今日出会った妖怪はあのお狸様を含めて4体。

少ない方だ。

それに、どれも弱い妖怪だったから、僕への負担が少なくて済んだ。

玄関を静かに入り、自分の部屋へと向かう。

着替えをして、軽くシャワーを浴びてから、アラームをセットして布団に横になった。