ふたつのさくら

「そうですか。それじゃ、おふたりの家まで送りますよ。まだ早い時間とはいえ、危ないことに変わりはないので。」

「えー、俺まだ帰りたくない。」

僕の言葉を聞いた弟くんが声を上げた。

帰りたくないって言われてもなぁ。

僕はまたかがんで、弟くんに聞いた。

「どうして帰りたくないの?」

弟くんは不機嫌そうに答える。

「だってー、家に帰っても、どうせとーちゃんもかーちゃんもいないもん。」

いないってどういうことー?!

これが両親共働きで、夜、帰ってくるのが遅いとか、そもそも夜の仕事とかなら、まぁわかる。

だけど「この世に」いないってことだったら、いろいろ話が変わってくる。

言葉には気をつけないと、いらぬ恨みを買いそうだ。

あー、なんかめんどくさくなってきた。

情なんて持たないほうが、楽に仕事できるよなー。

「……へー、そうなんだ。」

なんで反応したらいいか考えた結果、そんなどうとも取れないような返事になってしまった。

僕は再びお兄さんに目線を合わせる。

「って言ってますけど、」

そしてそいつにだけ聞こえる声で言った。

「……ここで消えますか?」

「っ?!」

僕がそう聞くと、男は目を見開き、一瞬動きが止まる。

すぐに鬼のような形相になり、僕に襲いかかってきた。

僕は一歩後ろに下がってそれを避け、刀を抜く。

と同時に、妖怪としての自分に切り替えた。

「いきなり危ないですね。えっと、あなた方は……お狸様ですか?」

大人のほうは何ともなっていないけど、子供のほうは人の形を保ってはいるが、尻尾が出ていた。

今の一連の動きに動揺したのだろう。

それに気づいた子供は、慌ててそれをしまおうと頑張っていた。

大人のほうは僕を睨みつけるばかりで何も答えようとしない。

「あーあ。せっかく巣に戻ってお仲間も一緒に送ってあげようと思ったのに。」

まずは子供に刀を向けた。

自分の庇護者が消えるところは見たくないだろう?

「残念です。」

笑顔で言ってから、切りかかった。

子供のほうは尻尾をしまうのに夢中で、抵抗することもなく僕に切られて光の粒となって消える。

大人は全く動こうとしなかった。

情はないのかなぁ?