ふたつのさくら

……屋敷を出て東へ向かう。

昨日、菖蒲の父親が西側を回っているはずだから、今日は東側だ。

町の東には大きな川と森がある。

ちなみに西側は住宅地だ。

いつも、僕が担当のときに東側になるように、調整されている。

少しでも危険を減らすためだ。

僕の、もそうだし、そこに住む人の、もある。

懐中電灯の灯りを頼りに、20分くらい歩いて、川沿いの道に出た。

土手の上から、川原を見下ろす。

ここの川は綺麗だ。

中流で幅は広め。

流れも速いけど、透明に澄み渡っていて、夜でも水面がキラキラと輝いていた。

ふと対岸を見ると、2つの人影があった。

身長差がかなりあるから、大人と子供、おそらく親子なのだろう。

彼らは上流、森の方に向かって歩いていた。

手には灯りの類は持っていなくて、月明かりだけで歩いているようだ。

まだそんなに遅くない時間だけど、明かりもなしに出歩くのは危ない。

「こんばんはー!」

声をかける。

2人は声に気づいたようで、周りをキョロキョロし出した。

「対岸にいます!」

手を振りながらそう言うと、大人のほうがこっちを見て、返事をした。

子供さんにはわからなかったかな?

「こんばんはー!」

男性の声だった。

明るい声で、健康そうだ。

「暗くて危ないので、ちょっと待っててください!そっち行きます!」

「あ、はーい!」

返事を聞いて、上流の方に走る。

少し走れば、向こう岸へと繋がる橋にたどり着いた。

橋を渡って今度は下流に向かって走り、親子のもとにやって来た。

「お待たせしました。」

僕と背が変わらない、20代後半くらいの男性と、5歳くらいの男の子。

2人は手を繋いで、僕がくるのを待っていた。

「おにーさんこんばんは。」

男の子が声をかけて来た。

挨拶できてえらい。

僕は少しかがんで、男の子に目線を合わせる。

「こんばんは。お父さんとお出かけ?」

かなり歳が離れて見えたからそう聞いたけど、男の子の答えは予想と違った。

「ううん。けんごくんだよ。俺のにーちゃん!」

胸を張って言ってくれた。

「あ、おにーちゃんだったの?」

「うん!」

それを聞いて、僕はけんごくんと呼ばれたお兄さんに向き直った。

「失礼しました。そうとは知らず……。」

僕がそうやって謝ると、お兄さんは手を振りながら返事をした。

「いえいえ。もう何回も言われてますし、実際息子でもおかしくない年齢差はしてますから。」

なんか、複雑な家庭の匂い……?

これ以上この話をすると、変な厄介ごとに巻き込まれそうだから、早々に話題を変えた。