ふたつのさくら

一度伸びをして、机の上に広げられたテキストを見る。

高1の数学、だけど、中高一貫校だから、今やってるのは高1の2学期にやる内容だ。

サインとか、コサインとかの訳わからないやつ。

「菖蒲のとこ行こうかな……。」

菖蒲はあれで勉強ができる。

これからのことを考えると頭が痛くなるけど、考えなきゃいけない。

学校に行けることが、そもそも少なくなるだろう。

だから今遅れることは避けたい。

よし、行こう。

そう思ったとき、部屋の襖が開かれた。

入ってきたのは凍夜だ。

「あ、凍夜。おかえり。」

「ただいま。兄さん、これ。」

そう言って、ひとつの封筒を渡してくる。

裏面を確認すると、渡貫当主の名前が書いてあった。

「ありがとう。朝早くからお疲れさま。部屋戻って休みな。」

僕がそう言うと、凍夜はあくびをしながら頷いて、部屋を出て行った。

襖が閉められたのを確認して、封筒を開いて手紙を読んだ。







「……1人じゃない、ねぇ……。」

手紙を読み終え、1人つぶやく。

だいたい予想通りのことが書いてあった。

僕が悪いわけじゃないとか、咲良さんのことはうまくやるとか、頼っていいとか。

あとは死ぬのはやめろ、とかね。

「無理、かなぁ……。」

渡貫当主への手紙には、今の僕が考えられる最悪の事態を書いておいた。

だからこその、その言葉だ。

多分今すぐに、そうなるわけじゃない。

でもこのまま徒野の当主としての仕事を続けていたら、いずれそうなる。

僕が咲良さんを傷つけて、死ぬ。

正直、大人は僕と僕の中にいるやつのことを甘く見すぎていると思う。

もう、そんなに悠長に構えている時間はないんだ。

明日、咲良さんを殺しているかもしれないのに。

まぁ、そうならないように、対策はするんだけどね。

「はぁ……菖蒲のとこ行こ。」

勉強道具と薬を持って、近くにある化野家に向かった。

……のはいいんだけど。